ブロックにおけるドクターズランキング

あなたが一般人であるならば、自分の担当医が以下の何級のレベルに値するかを品定めするといい。あなたが医師であるならば可能な限り上位の級へとトライするといい。ここには細かな技術検定のような項目はない。だが、それぞれの級には診断力、技術力、リスク回避力、強い精神力がなければ到達できない条件をそろえてある。半分以上、冗談で作ったブロック技術ランキングである。
級なし ブロックのやり方は知っているが、「慣れている、得意だ」とは言えない。チャンスがあればやってみたいが、なかなかそのチャンスに巡り会わない。
10級 タップするなど重大なミスをある程度経験しブロックの怖さを経験した。その責任の重さゆえに患者が切望しなければブロックは行わない。切望してきても適応患者を選ぶ。痛みを強く訴える患者でもまずは経口薬から治療を開始し、効果がなければブロックを考える。
9級 ブロック経験をある程度積み、患者を治癒させた実績がある。患者がブロックを希望すればできるだけそれに応える。ブロック対象の多くは急性期の患者、または急性増悪の患者であり、難治性と思われる患者には成功率が高くないので、敢えて積極的にブロックを行わない。
8級 ブロックに理解のある(合併症・副作用・リスクなどを理解している)患者なら難治性や慢性例でも積極的にブロックを行う。他医で何年と通院しても治らなかったという患者と出会うと意欲が湧き、自分なら何とかできると考えてブロックを行う。何度かブロックを行い、それでも効果がなかった患者には治療をあきらめるよう説得し、ブロック以外の治療を指示する。
7級 他医が何度もブロックを行い、それでも治らなかった難治症例患者にも「自分なら治せるかもしれない」と考え、ブロックのやり方を工夫する。週に複数回のブロックや、一度に数カ所のブロックなど、保険外のやり方を試し、目の前の耐えがたい苦痛に悩んでいる患者を救おうとする。初診の患者にも必要ならばいきなりブロックを勧める。
6級 精神疾患があったり、性格が悪かったり、医師の指導に従順でない患者など、要注意人物と呼ばれている患者でも、ブロックを希望するのであればトライする。また、全く治療効果がないに等しいと思われる患者でも、患者が切望すれば定期的にブロックを行うこともある。高度の脊椎変形、高度の肥満などでブロックがかなり困難な例であっても、患者が望むなら積極的にトライする。
5級 神経症、認知症、恐怖症、各種障害がなどがあり、インフォームドコンセントを行うと患者がブロックを拒否するだろうと予測できる場合、しかしながらブロックを行えば劇的に症状が改善すると思われる場合は、インフォームドコンセントを控えめにして、自分の責任においてブロックを行う。ブロックが高難度と思われる患者にこそ、積極的にブロックを行い、修行する。ブロックはノーミスに近く、リスクはゼロに近いと言えるほどに知識も技術も卓越している。
4級 症状を改善させるためにはあらゆるブロックの組み合わせを試みる。ミスが疑わしいブロックの場合は成功するまで再トライする。よってブロックが不成功に終わるということはほぼゼロに等しい。自分がブロックを手掛けた患者はどんな難治性であろうとも必ずブロック前よりも改善させることができる。頭痛・肩コリ・関節痛・筋肉痛などは神経痛が合併して難治性となっているという認識があり、これらにも適応を広げてブロックを行える。つまり診断技術が教科書の枠を超えて格段に上がっている。
3級 痛み以外の症状、しびれ、まひ、自律神経失調症、難聴、めまい、過活動性膀胱などがブロックで治せることを知っており、医学書では治らないとされている難治性の疾患に対しても完治させている実績を持つ。そういう症状を合併している患者には、除痛以外の目的でもブロックを勧めることができる。ブロック時には怖がらせない、痛がらせないテクニックを持ち、ブロック手技で患者にトラウマ体験をさせることがないに等しい。よって痛み以外の症状に対しても、患者にブロックを勧めることができ、ブロックの適応がさらに拡大される。
2級 ブロックを拒否している患者、医者に大きな不信感を持っている患者、些細なミスでも訴えようとしている患者にさえもブロックを勧められ、失敗して足をすくわれることが万に1つも起こらないレベルまで知識も技術も経験も話術も読心術も向上した。合併症を持ち、ブロックリスクが高い患者にも責任を持ってブロックできる。難しいブロックもカジュアルに行うことができ、原因不明の疾患もブロックを試しに行うことで症状を消失させ、治すことで確定診断をつけることができる。
1級 将来に起こり得る症状に対して、予防的にブロックを行える。よって症状がほとんど出ていない患者にさえ、予防的に経年変化を最小限にとどめるための長寿メンテナンスブロックができる。ブロックの適応が格段に増え、血行増進を目的として交感神経ブロックなどができる。そして実際に多科に渡る疾患の治療を年々開発している。
初段 脳・脊髄疾患治療への挑戦 不治・難治病の克服。ブロックで不治の病を治すレベル。 私は2014年の夏、やっと初段になれました。「難治性慢性痛への取り組み」を参。

あなたの大学のペイン科の医師は何級?

おそらく大学病院で数え切れないほどブロックを行っている医師でさえ5級か4級が限界であろう。それ以上の上位に行けない理由はリスクにある。ブロックは他のどんな保存的治療よりもリスクが高く、施行する医師にはリスクが生じた場合の責任を負わなければならない。合併症が大きければ大きいほど医師の追う責任は大きい。高齢者や各種内科的疾患を合併している患者では循環器系ショックで死亡する危険まである。また、患者が医師不信であったり、ヒステリー性人格障害者であったり、ブラックリストに載っているような患者であると、ささいなミスでも騒ぎ立てられ、訴えられ、医師に莫大なストレスを与える。だから4級か5級のラインを超えることはできない。
このプレッシャーを越えて治療ができるようになるためには、とにかくリスクをゼロにするまでに技術を高める以外にない。
ブロックの効果を高める工夫は、ある程度の達人になればどの医師にもできるが、リスクをゼロにすることはどんなに優れた医師にも不可能に近い。その不可能を可能にしていくことで初めて上位の級に上がれる。ブロックを望まない患者にブロックを勧めるにはリスクをゼロにする以外に方法がない。つまり、このドクターズランキングでは「リスクをゼロにできるか?」の腕前を「ブロックを拒否している患者に勧められるかどうか?」に置き換えて格付けしているわけである。
リスクをゼロに近づけるためには、自分からリスクに近付き、背後に崖があって前に進む以外に道はないという状況に自分を追い込んでいける強い精神力が必要になる。まさにミスをすれば自分が死ぬという場所にまで自分を追い込んでいくことである。それはまるで綱渡りであるが、綱渡りを何万回もしていると、実際にミスしなくなる。
目の前の患者にブロックする時に、「失敗したら自分の命がない」という精神で挑むといいが、それができるようになるには、実際にノーミスの記録を永遠に継続していく以外にない。ミスをしなくなると人間は得意になり、油断するものである。が、油断に対してもチェックを怠らないでいられるのが積み重ねというものだ。ブロックが達人クラスになると、ブロックを成功させようと神経を集中させる必要がなくなる。つまり目をつぶっていても感覚でブロックが成功するレベルになる。すると、精神集中をリスク回避に回すことができるようになるからミスが起こらなくなる。
血管損傷、骨膜損傷、神経損傷、靭帯損傷、関節損傷など、針先の感覚で事前に制御をかけられるようになる。これらの繰り返しでリスクがゼロに近づく。ミスなし、リスクなし、痛みなしのブロックなら、どんな患者にも自信を持って勧められるだろう。よってブロックの適用範囲が果てなく広がっていくのである。ただし、何万回とブロックを行っても、越えられない壁があることも事実である。それはプライドというもの。
例えばブロック中の血管損傷、骨膜損傷、神経損傷、靭帯損傷、関節損傷などは自分が認めない限りミスではない。ブロックすればそのようなことは針を刺す限り普通に起こる。痛いのも当然だから痛がらせるのもミスではない。普通に起こることをミスととらえることはプライドの高い医師には不可能なことである。これらをミスと考えて自分を追い込むにはプライドを捨てなければならない。医師としてはミスではないが、ブロックの達人としてはミスなのだ。そういうところに自分を追い込むことは、達人クラスでさえなかなかできるものではない。さらに、ブロックを行えば行うほど、ブロックで治せる疾患が痛み以外にもっとたくさんあることがわかるようになる。
たくさんあってもブロックできない事情がある。それはリスクである。ペイン科の医師は何十年と治ることのない慢性の肩凝りを頚部硬膜外ブロックで即座に完治させることができることを知っている。しかし、頚部硬膜外ブロックはタップすれば意識消失・呼吸停止の恐れがあり、それほど大きなリスクを背負ってまで肩凝りを治したいという患者はほとんどいない。だから適応外となる。
ブロックをすれば完治する。しかしリスクのために適用外という症例は腐るほどたくさんある。逆に言うとリスクをゼロにできれば、様々な未知の治療が可能になる。しかし、そのような適応は医学書には掲載されていない。つまり保険で認められていない。よってブロックの適応を広げることは、真に人と病と向き合い、治療に命をかけられる医師でなければ無理なのである。したがって3級より上にはなかなか行けない。無謀な医師になれという意味ではない。リスクゼロが無謀ではなく標準になるまで技術を磨ければさらに上に行けるという意味である。
さて、どんな名人であろうとブロックのミスがあれば患者は治らない。しかしミスをどのような方法でミスと知るか?が難問である。ある患者にブロック行いました。ブロックはたとえ適所に入らなくても、ある程度効いてしまうものだ。よってその場でブロックミスは調べようがない。だからミスをミスと認知できず、結局ミスをリカバリーすることは不可能に近いのである。例えば私はこうしている。ブロック後の患者に立って歩いてもらい、痛みがどの程度軽減しているか訊ねる。全快ではなく半分軽快ならそれをミスとして認識することにしている。
重要なことはそのミスをどうフォローするか?である。私は患者に頼み込み、再度同じブロックをトライさせてもらう。それが失敗したら3度目のトライを申し込む。こうすればミスをゼロにできる。しかし難問がある。患者はブロックをそうそう何度もさせてはくれない。何度も痛いのはいやだからだ。しかもミスをたやすく認めればその医師は信用を失い、「もう一度トライさせてください」と頼んでも「この先生はやばい!」と思われて拒否されるのが落ち。
この難問を解決できるのは「痛くないブロックができる技術」である。そして信用である。ブロックの達人はたった一度のブロックで患者を信用させることができる。痛くない注射で魔法のように痛みを消し去るからだ。だからたまたま失敗しても患者はリトライを快諾してくれる。これを積み重ねて100%効果のあるブロック実績を作るのである。何度もブロックをさせてもらえるのはリスクがゼロに近いからであり、逆に言うとリスクがゼロであることがミスゼロを生みだすと考えていい。
よって私は「効果のあるブロック」を広く一般的に行うことができるという意味で、私の右に出る者がいないくらいに技術が向上している。理由は技術ではなく精神力にある。効果が出るまでその場で繰り返す、または日を改めて繰り返す、または種類の異なるブロックを何本も組み合わせ、複数同時に行うなどを朝飯前で行うからだ。言うは易し、やるは難し。
ここに挙げた例はブロックを行う上でのほんの一部の技術でしかない。実際のトラブルはもっともっと存在し、それら全てを解決できなければブロック経験がトラウマとなって医師の治療意欲が低下してしまう。トラブルは修行の肥やしと考えなければブロック技術は上がっていくものではない。果敢に挑戦すればするほど、トラブルにも多く出遭う。そのトラブルを解決していくことでのみリスクがゼロに近づいていく。どうかトラブルに負けないで欲しい。
私が今後目指すことは、医師たちにブロックの適応を広げていってもらえるシステムを作ること。医師のブロックリスクを減らすために、患者教育を広く行うこと。私は現在、ブロックを脳梗塞後遺症や難聴治療にまで適応を広げ、治療成果を上げている。前人未到の適用範囲であるが、そういうことは厳重なリスク管理下にのみ可能となっている。

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