ほとんどの脊椎疾患は内科的に治せる
私は「手術しなければ治らない」そう整形外科医に宣告された多くの患者を内科的な治療で満足の行く状態にしてきました。心配いりません。「手術しなければ治らない」はそれを宣告した医師の能力の限界を意味するだけであり、医療の限界ではありません。実際、あらゆる手を尽くせばほとんどの脊椎疾患は治せます。治ります。もちろん、内科的医療には限界があります。しかし、どこまでもあきらめずに治るまで手をかけてみるという不屈の精神で治療すると、限界は案外ないものだと私は感じています。だから安心して下さい。手術をしなければならないと絶望の淵に立たないでください。もう手遅れと思えるような重い症状でもなんとかなるものです。ただし、そういう不屈の精神を持つ医師を自ら探して出会いに行く患者自身の精神力が問われるという面は確かにあります。医学の限界がある
私は医学の限界を常に少しずつ破ってきました。教科書にはない新しい試みをし、あらゆる手法を試し、脊椎疾患の患者を治療しました。教科書的な限界、保険制度上の限界を超える治療も工夫して行ってきました。その限界を毎日破り続けることで「他の医師たちが治せない痛み」を治せるようになってきました。しかし、それでも全く治療に反応しない症例があります。そういう症例が難治性症例の数パーセントに存在します。ここで重要なことは、「治らない」と医者に言われても、まだまだ治る余地はありますが、その中の数パーセントには整形外科では本当に治らない(治せない)場合があるということです。ここでは整形外科では治らない疾患について述べます。(本文は4年前に書いた文です。現在は数パーセントの「全く治療に反応しない」痛みでさえ治せるようになっています。)薬効時間と治療
治療には二つの時期があります。薬効の時期と薬効後の時期です。薬効の時期とは使用した薬の純粋な作用時間内のことです。たとえば1%キシロカインの作用時間は1時間。注射をしてから1時間はほぼ無痛となりますので、効果時間が1時間以内なら薬効内、1時間以上効いているのなら薬効後の時期に入ります。1時間を過ぎたら痛みが元に戻るのでしたら薬効の時期しか痛みがとれないということになり、治療効果がないと判断します。薬効時間内だけ効果がある治療は「全く治らない」といいきってかまいません。たとえば、痛み止めの飲み薬、血圧の薬など…薬が切れると症状が元に戻ります。これは病気を治しているわけではありません。症状を抑えているだけです。厳密にいえば「全く治っていない」のです。多くの飲み薬は飲んでいる間だけ効いているのでこれは治療ではなく、姑息療法といいます。糖尿の治療、高血圧の治療、高尿酸の治療など…それらの多くは治療ではなく単なる症状抑制です。治療とは薬効時間が切れた後でも症状改善が続いている状態を言います。この当然の理屈を医者も患者も意識していないことが問題点です。薬を処方し続ける医者は全国に五万といますが、彼らははっきり言うと病気を治せない医者であるわけです。医者をけなしているわけではありません。医は科学ですから、事実を追求することが大切です。
ネガティブな性格では治療を打ち切られる
先ほど述べたように1%キシロカインの薬効時間は約1時間。よって1時間を超えても痛みが改善しているのなら、それは治療効果が出ていることを意味します。例えば半日効果があったなら、それは治療効果が出ているわけで、これを「全く治らない」と患者が勝手に判断、または医者が勝手に判断してはいけません。苦痛に悩む患者は全快状態が永遠に続くことを治療と考えるがゆえに、半日効果があっても医者に「全く良くならない」と告げます。しかしそれは真実ではありません。本当は薬効時間(1時間)を超え、半日治療効果が出ているのに、無効と告げています。このように告げれば、医者は「この治療は無駄、無効」と考え中止します。患者には怒りと不信が残るだけです。きちんと治療してもらいたいなら、患者はどのくらいの期間、痛みがやわらいでいて、「少しでも効果があったことを率直に伝えなければなりません。そしてどのくらいの時期に症状がぶり返してきたのかを報告する必要がります。ネガティブな性格の持ち主は、効果を医師に伝えることができないために治療を放棄されやすいのです。私は現在では、ネガティブな性格の持ち主にも治療を続けますが、しかし、それでも「適切な治療データ」を患者の口から教えてもらうことが不可能ですから、非常に治療しにくいことだけは変わりありません。薬効時間を超える治療
薬効時間を少しでも超えて症状が改善しているのなら治療効果が期待できる。この事実を認識しなければならないのは患者よりも医者のほうです。 「半日しか効果がないから治療をやめる」とあきらめるようなことがあってはなりません。少なくとも半日しか効果が出ない理由を追究する姿勢がなければなりません。そして突き詰めればわかることですが、(医師の治療が100%成功と言えるのなら)原因の多くは患者にあります。ある程度治療したものを患者自ら再び損傷させて再燃させています。それは不用意に便座から立ち上がることだったり、ゴミをゴミ置き場まで出す作業だったり、患者が自損しているという意識が全くないものばかりです。だからトラブルが起こります。患者が意識していないところを指導しなければ治療が不可能なのです。しかし、生活指導はとても煩雑な上、患者に指導してもほとんど守りません。よって生活指導をすることは患者に嫌われることを医師が覚悟しなければなりません。半日しか効果がないことを「治療のせいではなく私のせいにするの!?」と患者に思われるからです。事実を突きつけると患者に嫌われますので、評判を落としたくない開業医の先生方には、生活指導はなかなかできることではありません。患者の心得
治らないのは自分が悪いのかもしれないという思考を持っていない人がほとんどです。軽い病気は医者が勝手に治してくれるでしょう。自然にも治るでしょう。しかし、高齢が原因の病気は患者自身が努力しなければほとんど治りません。これを知ることが患者の務めです。そうやって自分の責任を認識し、かつ治療に協力しようとしている患者の場合、医者は喜んで全力を尽くしてくれます。医者が全力を尽くしてくれないのは、医者の責任だけではないということを認めなければ治るものも治りません。医者と患者、両者が全力を尽くしても治らない病気
さて、ここまで医者と患者が全力で治療に臨んで、それでも治らないのであれば、整形外科領域の病気ではないかもしれないと判断を下します。全力というのは、たとえば最低でも週に2回以上の硬膜外ブロックなどの治療を意味します。週に1度(保険では週に1回分しか治療費を出してくれませんが)の治療で全力とは言えません。その上で患者も治療上の協力を惜しまない、そういう状態を双方の全力治療といいます。納得が行かないなら、納得いくまで医者を探すのもいいでしょう。患者に熱意があれば必ずよい医者にもめぐりあえます。しかし、覚えておいて下さい。全力の治療の上で治らない場合が数パーセントあります。ここではその稀なパターンを解説します。思い当たる節があれば整形外科を受診するのではなく他科を受診する勇気を持たなければなりません。なぜなら整形外科医は日常的にこれから述べる疾患を念頭に置いていないからです。整形外科で治らない痛み
1)内臓由来の痛み
後腹膜臓器の不調(癌なども含む)から生じる腰や背中の痛みがあります。もっとも多いのが腎・尿管結石です。特徴は中心部よりも脇腹に痛みが出るところで、痛みの部分に振動を与えると痛みが増します。尿にわずかに赤血球が交ることで診断がつきますが、赤血球がはっきり現れない結石があることを認識していない医者が多く、尿検査で異常がない場合に見逃されます。痛みが激烈な場合、冷汗や吐き気が伴うことがしばしばあります。腰痛との鑑別でもっとも重要な症状は吐き気です。普通の腰痛に吐き気はきません。他にすい臓、卵巣などの異常、月経痛などでも腰痛が起こりますが、内臓由来の痛みは活動によって悪化せず、安静にしているからといって楽にならないという点で多くは鑑別がつくものです。また、消化器症状から来るものは食事と関係があることが多く、鑑別がつくものです。最近のマスコミの影響で内臓由来の腰痛を心配する患者が増えましたが、「内臓から来る腰痛で、腰痛だけが唯一の症状」であることは稀であるということを覚えておきましょう。2)大動脈瘤
胸部大動脈瘤では背中の痛み、腹部大動脈瘤では腰の痛みが現れます。急に出現したものであればどんな処置を行っても耐えられないほどの激痛を訴え、多くは麻薬を注射しなければ痛みをごまかすことさえできません。脊椎を撮影したCTやMRIで偶然発見されることもありますが多くは見逃されます。ただし、徐々に発育してきた動脈瘤の場合、痛みは激烈ではなく緩慢なので、普通の腰痛・坐骨神経痛と区別することが非常に困難です。動脈瘤の有病率は人口の0.5~3.2%と言われるので少なくありません。発症年齢のピークは70~80歳。よってこの年齢帯の難治性慢性腰痛では念頭に置いておかなければならない疾患です。直径が5㎝未満の動脈瘤の場合、外科的に治療することはなく問題視されないので腰痛がまさか動脈瘤由来であると考える医師は皆無です。よって動脈瘤による緩慢な腰痛は真実が突き止められることはなく闇の中となります。3)ソ径ヘルニア
外ソ径ヘルニア、内ソ径ヘルニア、大腿ヘルニアが股関節痛、大腿前面痛を生じさせます。腰椎疾患でも大腿神経痛を生じこの部分に神経痛を起こさせることから鑑別が難しいのです。しかもソ径ヘルニアは歩行時に痛みが強くなるため間歇性跛行と症状が似ています。整形外科医にソ径ヘルニアを触診する技術がないことが多く、ソ径ヘルニア初期では診断がつきません。ソ径ヘルニアが明らかな脱腸症状を示し、膨瘤すれば患者自身がわかりますが、明らかな膨瘤が起こらないものもあるため誤診されます。特にスポーツ選手などのソ径ヘルニアはスポーツ時のみに痛みを生じ、それが股関節痛や神経痛として誤診されることも少なくありません。逆に外科で股関節の痛みを訴えると、すぐにソ径ヘルニアだと誤解され、手術を勧められて切ったはいいけれど痛みが治らないという悲劇もあります。4)糖尿病による神経炎
糖尿病では血管内壁へのグルコースの付着により毛細血管を詰まらせます。毛細血管以外でも脳血管、心臓の冠血管、下肢の動脈などを詰まらせます。つまり糖尿病は血管の病気であり、神経の栄養血管を詰まらせて様々な神経炎の症状を起こします。末梢の神経炎であればしびれ、冷感などで済みますが、神経根などが阻血状態に陥ると筋力低下、しびれ、痛み、だるさ、灼熱感などあらゆる症状を呈します。この状態は腰椎疾患による神経根症状と全く区別がつきませんから、誤診ではなく、治療が無効な神経根症状として扱われて終わります。また、血管が詰まるのは神経根だけではなく、脊髄への栄養血管も詰まる可能性があり、脊髄症になることもあります。その場合は今の医学では治療法がありません。何をやっても無駄と思われますが、もしかすると根気よく交換神経節ブロックを行えば、表面麻酔剤の血管拡張作用で血流が再開→神経根炎の解消ということが起こるかもしれません。ただし、糖尿病があるからといって、真に栄養血管のつまりで神経炎が起こっている可能性はそれほど高くないことをつきとめています。「糖尿病があって、痛みや痺れがなかなか治らない人」の場合、整形外科医師からはほぼ必ず「糖尿病のせいで痛みや痺れがありますのでどうしようもありません」といわれて治療を放棄されることを、患者からの申告で確認しています。しかし、そういう患者に私が硬膜外ブロックや神経根ブロックを行うと痺れや痛みがかなり改善することから、「糖尿病のせい」という前医の診断はほとんど誤診であることをつきとめています。5)膠原病による神経炎
関節リウマチ、SLE、多発性筋炎・皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、ベーチェット病、シェーグレン病など自己免疫性疾患では神経が直接侵されたり、血管が侵されることによって神経の血行遮断が起こったりして種々の神経炎症状をもたらします。神経炎がどのような症状をもたらすかについては糖尿病性神経炎と同様ですのでそちらを参照ください(医師の一般常識として神経が侵されれば痛みが増すのではなく麻痺すると思われていますが、おそらく真実はそうではないでしょう。最近の研究では痛みを抑制するニューロンが破壊されることによる痛みの増加が考えられるようになってきています)。糖尿病性疾患と膠原病疾患との違いは、膠原病の場合免疫抑制の薬剤に反応しやすいということです。神経炎(神経根炎)などにもステロイドを用いたブロック注射で改善させることが可能と思われます。しかし、慢性的に長期に経過したものは神経が不可逆的な変性を起こしていれば、現在の医学では治療が困難ということです。早期に発見すれば対処できますが、膠原病の初期は種々の抗体検査で診断基準を満たしません。つまり、疑わしいと思われても診断されることがないので治療は後手に回ります。そして診断基準を満たした時は、時すでに遅しで不可逆的な崩壊が生じていて、今の医学ではどうにもできないということになります。疑わしきは罰するという思い切った治療を早期に始めるべきであると思うのですが、そういう英断を下すことは医者生命を短命にさせるでしょう。特に日本の医師は保守的であり、診断基準にあと一歩足りないというような場合でも治療を開始しません。たとえばリウマチの診断基準は日本でアメリカで世界で、毎年のように変えられていきます。それほど診断基準自体がいい加減だということを意味しているのですが、逆にいい加減だからこそ早期の治療をしない傾向があります。なぜなら治療薬の副作用が強いためです(「リウマチ治療で種々の副作用が出現した例」を参照)。治療法などもこの文献を参照ください。実際は膠原病体質であるのに診断基準を満たさず種々の症状が出る症例があることを一般的な医師は考えません(「化膿性膝関節炎と誤診された自己免疫性膝関節炎の3症例」を参照のこと)。
6)脳・脊髄の異常による痛み
脊髄、脳の腫瘍で神経痛様の症状が出ることもあります。頻度はマスコミがさわぐほど高くはありません。神経線維腫、神経鞘腫などもあります。できる場所によっては椎間板ヘルニアの症状と全く同じなので区別が出来ません。しかしMRIが手軽にできるようになった現在、腫瘍を見つけることはそれほど難しいことではありません。だから症状は坐骨神経痛のみであっても、一度MRIで調べてみることをお勧めします。全身あちこちが痛く、何をやってもどんな治療にも反応しない場合は視床痛や脳卒中後遺症を考えることもあります。その場合は対症療法になります。視床は痛覚を含む全身の体性感覚の最後の中継点。ここが梗塞や出血で損傷されると、痛みのセンサーが壊れたかのようにあらゆる場所にあらゆるいやな痛みなどの感覚が起こっても不思議ではありません(推論ですが)。脳梗塞や脳出血の後遺症でも神経痛様症状を呈することが、理論上あるでしょう。しかし、ここで決して忘れてはならないことがあります。脳や視床に出血や梗塞などの異常があったとしても、そういう患者が神経痛を合併していることは高齢者なら当然のようにあり得ます。にもかかわらず、多くの整形外科医は「脳が悪い=治療をしても無駄」との先入観を持ち、脊椎が原因の神経痛やしびれを治療しようとしないのです。脊椎由来の神経痛ではないと診断するには、全力のブロック治療などをして、あらゆる治療を患者と協力しながら全力で対処して、それでもだめな時だけ、特殊な病気を想像すべきでしょう。多くの医師は自分が目の前の患者の痛みを取り除くことができない時、その理由を特殊な病気のせいにしてしまい治療を放棄する理由としてしまうという逃げに転じるものです。ですが、脳梗塞後遺症の患者は自らも「脳のせいで下肢のだるさがある」と思い込むので、医師に対しても治療を要求しません。治療すれば治る可能性もあるというのに残念なことです。
7)精神疾患、ヒステリー、心因性腰痛
医師はしばしば診断基準を満たさない教科書に掲載されていない症状の再現などがあると、それは理論的に正しくない=精神的・感情的に誇張されている、と既成概念に乗っ取らない症状を否定してしまう傾向があります。しかし、たとえ精神的・感情的に痛みが誇張されていようとも、その全てが原因が全くないものなのにでっちあげで痛みが来ている場合は非常に稀であることを認識しておく必要があります。精神的に誇張されている場合でも誇張される元の原因をしっかり取り去れば痛みを訴えなくなるということを念頭に置かなければなりません。ただし、臨床現場では実際にデプロメール(選択的セロトニン再取り込み抑制剤)などの抗うつ剤で症状がほとんど消失する患者を経験することがごくたまにあります。これは実際には神経痛があるものの、それを脳で誇張して感じている場合があることを示しています。事実こういう臨床経験をすると、医師は治らない患者は全て一度精神科へ紹介したくなるというものですが…しかし現実的には精神科で治療を受けて痛みが消失するのは紹介した患者の1割くらいに思えます(私は頻繁に精神科を紹介しません)。つまり、精神科薬のみではめったに治りません。8)関連痛
腰痛の大家MacnabはL5/S1の棘上靭帯に生理食塩水を注射して、その刺激で坐骨神経領域の下肢後面に痛みが放散することを証明して見せました。これを関連痛と定義づけ、「患者が訴える痛みの場所が、原因部分と一致しない」ことを論証しました。しかし、この実験を多くの整形外科医は誤解しています。こともあろうに「殿部の坐骨神経領域の痛みはL5/S1付近に原因がある。この領域の痛みはほとんどが関連痛で起こる。」というような解釈をするようになってしまったからです(今ではそう考える整形外科医は少なくなったかもしれませんが、20年前は私の同僚や先輩医師はそう考えていました)。L5/S1の棘上靭帯が損傷すれば、ここが痛く感じることもあるし、坐骨神経領域が痛く感じることもあるというのは正しいのですが、坐骨神経領域が痛むのは棘上靭帯の炎症のせいですとは言うことはできません。坐骨神経領域に痛みを感じるのは、大部分がその名の通り坐骨神経の損傷によるものでしょう(関連痛とは実際に痛みが起こっている部分と痛みとして感じる部分が違うことを述べた理論です。例えば心筋梗塞が起こると肩が痛くなるというような現象を指します)。この全くばかげた解釈を近年の若い整形外科医はしていない・・・と祈るばかりです。そして多くの複雑な神経根由来の痛みを関連痛のせいで起こっていると簡略化して考えないようにしなければなりません。神経根の炎症で起こっているはずの痛みを「関連痛(原因はどこか他の箇所にある)である」とする考え方は、痛みを治せない医師たちの間でいまだに幅広く支持を受けています(治せる医師はブロックや手術で実際に治療して見せ、痛みの原因が関連痛でないことをその場で証明している)。
関連痛の存在を主張する彼らの言い分は徒手検査で診断基準を満たさないと主張します。そしてMRIやCTで明らかな病変がないと主張します。つまり、診断基準を満たさない痛みは「患者のおおげさな痛みの誇張表現だ」とでもいいたげです。しかし、関連痛を主張する彼らは患者の痛みを治療することができません。治らない患者は彼らの元を去り、他の医者にかかっているというのに、その事実も知ることはないでしょう。ただ、最近の患者の発言を聞くと、関連痛を主張する整形外科医は減っているようです。なぜなら患者が「坐骨神経痛による痛みでしょうと前の医者に言われた」と私に告げるからです。偉大な腰痛の巨匠Macnab教授の影響は時代とともに薄れている感を受けます。
私はもともと診断基準自体を信じていません。どんな素晴らしい最新の画像診断を使っても、現医学水準では神経が炎症を起こしているかいないかさえわからないというのに、徒手検査でさえ完璧に除外診断ができないというのに、そんなあいまいな診断で、痛がっている人間を心因性か整形外科的痛みなのか?をふるいにかけるという医師の傲慢さに嫌気が刺します。トリガーポイント注射で何でも治せるというような夢のようなことを言い出す先生もいらっしゃいます。先ほどの例では棘上靭帯にトリガーポイント注射をすれば坐骨部の痛みがとれるという夢のような理論になります。このような理論のおかげで本来神経根ブロックが必要な患者であるのに適切な治療がなされないわけです。関連痛…それは確かに存在するでしょう。しかし、多くは関連痛などではなく、神経根性の痛みです。このことは私が実際に神経根ブロックを行い、実際に患者を治して証明しています。
待つ以外に治療法がない痛み
1)脊椎の圧迫骨折
20年前の整形外科医は高齢になれば脊椎が変形し身長も短縮するというのに、そういった椎体の圧迫変形による痛みの存在をあまり考えていませんでした。その理由は骨粗しょう症による椎体変形は「多くは痛みを伴わない」と思われていたからです。教科書的には「多くの高齢者圧迫骨折は無症状か、あってもわずか」と掲載されています。ところが、最近10年で急激に骨粗しょう症の強力な治療薬が誕生し、これを投与していると明らかに痛み症状が少なくなることが判明してきました。この結果の逆算で、脊椎が変形すると強い痛みが出ることが認識されるようになったのです。教科書の内容は嘘であることが、「骨粗しょう症を治す技術」のおかげで判明しました。やはり、脊椎の圧迫骨折は無症状ではなく痛いのです。しかし、XPで数パーセント以内のわずかな圧迫骨折がある場合、医師はそれを見抜けないことはしばしばあります。見抜けなければ痛みの原因がわかりません。わからないのに患者が強く痛がるものだから医師と患者の間に不信感が起こります。圧迫骨折の治療法は安静オンリーですが、小さな圧迫骨折は見逃されてしまいがちで、医師は患者に安静を指示しません。すると患者は激痛で歩けなくなるため、担当医に怒りを覚え、険悪な雰囲気となります。治療法は1か月半ほどできるかぎり安静にして待つことであり、待てばほとんど痛みが消失します。それ以上長期に渡り痛みが持続する場合は、再骨折が起こっている場合です。痛み止めの薬やブロック治療は効果がありません(一時しのぎです)。ところが「できるだけ安静に」という治療法を指導すると「筋力が衰えて歩けなったらどうするの」という社会的批判があるため安静を指導できる勇気ある医者はそうそう見当たりません。骨折は安静にしなければ痛みがとれないのは当たり前なのですが、XP上明らかな骨折も見つけられないので安静という当たり前の治療法を指導することなく、逆に「歩きなさい」と指導し悪化させるという悲劇が待っています。この悲劇は、わかっていても避けられない世の中の風潮があります。ただ、救われるのは2カ月以内にそのほとんどが無症状になるということです。
8か月前2m下のコンクリートに転落し、腰を圧迫骨折し、痛みが残ってます。痛み箇所は圧迫骨折した腰のあたり、それ以上に右の脇腹から右足の付け根辺りまで痛みます。30分以上同じ体制のあと身体を動かす事がこんなんです。この状態が骨折後の極度の痛み(事故2か月後)以降変わっていません。
右のわき腹まで痛むことから、落下時の障害は腰のみではなく胸椎にも影響があるのではないかと推測します。一度、腰部や胸部に硬膜外ブロックを受けてみることをお勧めします。私でなくとも、近くのペインクリニックに相談すればブロックをしていただけると思います。一応、私の情報をメールしておきますが、アドレスがdocomoの場合、PCからのメールが拒絶されることがあります。
娘の腰痛に悩んでいます。部活はバスケット。中学2年の終わりに痛みを発症。しばらくの安静で痛みは消失。MRで第4腰椎分離症、第4・5椎間板に中度のずれがあるがバスケットを続けて問題ないと言われ特待で進学を決める。高校入学前の春休みの練習中、腰痛出現。以前診てもらった整形で腰椎椎間板症・分離症と言われコルセットを作ってもらい、ストレッチを教わり、以後接骨院にて整体を受けたり、部活ではストレッチや腰に負担がかからない練習のみ実施。その間痛みにロキソニンを服用するも効果はあまり感じなかった様子。痛みが変わらない日々が不安で、違う整形外科を紹介してもらいMR撮影。同じ診断がつき、腹筋の弱さを指摘され同じようにストレッチを教わる。痛みで体育の授業も受けられない事等を相談し、サインバルタを処方される。痛みが少し引き運動量を少し増やすとまた痛みが出現。以降ふらつきやしびれ、精神的に不安定な様子が続き相談後服用を中止(21日間)痛みに耐えうる体作りをするしかないと。痛み止めの相談にペインクリニックを紹介される。詳しい画像をとCT・MR。L5両側椎間板突起間部の分離症(右側は硬化性変化が目立つ)と。7月から注射を3回(1回目は2日間痛み消失。以降効きは感じられず)理学療法も併用し痛みはあっても練習に参加できるようになる。8月には試合にも数分でれるまでに。9月に入り走っている最中以前と同じような腰痛・股関節から足が抜ける感覚が出現。椎間関節高周波熱凝固法を施行してもらうが効果がなかったか・・しばらく引きずるような歩行しかできず。9月からトラマールを服用しだすが10月中旬から嘔気が出現、10月終わりには服用中止。その後リリカを処方されるが眠気や胃部不快等で10日で終了。ペインクリニックでは以後数回注射と内服で通院するが、理学療法の回数が増やせない体制だったためリハビリテーション病院を紹介される(週1~2回のリハビリと毎日の部活でのリハビリを続ける)知人に勧められた整体に行く事で痛みが半減し、痛くなっても回復が早くなったと行動範囲が広がり12月下旬のリハビリでは5~10分のジョギングができるように。1月に入ってからは痛み止めも服用せず自主練を増やす。まだコンディションが整っていない状態での部活参加で自制もきかず、2月以降腰痛悪化、足に力が入らない状態に。リハビリ中心の日々に戻し整体も利用しながらの状態です。
この1年痛みは常にある状態です。帯同の先生がいろいろ調べて日常損傷病学のサイトを教えてくれました。長引く腰痛や足の症状の原因が分離症だけか、他に治療法があるのか・・・。痛みがなくなる事がなくてもバスケができる状態にしてやりたいです。親子共精神的にも辛い状態です。
何卒宜しくお願いします。
バスケットボールはかなり動きの激しいスポーツであり、腰が弱い方にはもともと無理なスポーツです。部活をさせてあげたい気持ちはわかりますが、人生には優先順位をつけなければならないときがしばしばあります。何かをとれば何かを失くす。よって人は優先順位をつけて人生の取捨選択をします。部活をやめろとはいいませんが、優先順位を考えなければなりません。もしも、私が週に1回治療を行い、カイロプラクターや腱引き師に手をかけてもらえば、部活が続けられるかもしれません。しかし、そのために維持費が月に10万円かかるようなら、部活をやめたほうがよいという考え方になります。優先順位は経済的な問題が多分に関わっているからです。プロのスポーツ選手であれば10万円かかったとしても痛みを取り除くことが優先になります。
ようするに、痛みがない状態を維持するためにどのくらいのコストがかかるか?が一番の問題だということを確認して置いて下さい。他の医師たちが治せない症状の場合、そのコストは一桁高くなるのが通常です。ないものはねだれないのが人生です。そういった考えの中で、私の治療が安上がりで行くかどうかは、やってみないとわかりませんので一度ご連絡差し上げます。あなたと同じような立場の高校生を治療した経験がありますがやはり、スポーツをする度に痛みが再燃する傾向がありました。