椎体
椎体は円柱の形をしていると思われているがそうではない。椎体の前方は丈が長く、椎体後方の丈は短い。側面から見ても明らかに台形の形をしている。つまり後方に傾斜している。台形の角度は下部腰椎になるほど急角度となる。L1椎体の台形の傾きはわずかであり、ほぼ長方形に見える。しかしL2,L3,L4と下部に行くほど台形となり、L5腰椎は10°近くの傾斜がある。 19歳女性、腰椎側面単純XP(正常)右側臥位で撮影これらの正常椎体の形態を認識しておくことでわずかな圧迫骨折をも見逃さなくなる。圧迫骨折は陳旧性のものもあれば、徐々に椎体が変形をきたしてきたものまで様々である。原因はどうであれ、圧迫骨折の存在は椎体に過度のストレスがかかったことの証拠となる。これをふまえて次の腰椎側面像を見ると、椎体の異常が見えてくる。 筆者 44歳(男性) 腰椎側面像(右側臥位撮影)
L1からL5まで全ての椎体で形態異常があることがわかる。正常の椎体と比べると、台形の傾きの角度差は
- L1で6.5°
- L2で10.8°
- L3で9°
- L4で10.5°
- L5で3.8°
- 腰椎全体で何度変形しているか? 6.5+10.8+9+3.8=30.1
当然このようなアライメント異常を起こした腰椎の予後はよくない。重力が前後(前は椎体、後ろは椎間関節)に均等にかかっていない状態での労働やスポーツにより、椎間板を崩壊させやすいだろう。椎間板が崩壊すれば椎間関節変形を進行させる。椎体の変形はよく観察するとそれだけではない。 この写真はL3、L4の椎体前縁を比較したもの。左が正常で右が筆者の写真。筆者の椎体前縁の弧の曲率が急であることがわかる。陳旧性であろうが、徐々に起こった圧迫骨折であろうが、圧迫変形が生じた椎体の前縁は必ず曲率が変形する。
このことを知っておくことで頚椎捻挫における頚椎の微小な圧迫骨折を発見できたり、尻もちをついて腰を痛めた若年者のわずかな圧迫骨折をも発見できるようになる。そういう認識を持ち始めると、脊椎の圧迫骨折が想像以上に多いことがわかるようになる。これまで「何も異常はありません」と言って帰宅させたむちうち患者の頚椎で、実は圧迫骨折が起こっていることを発見することができる。こういう圧迫骨折を全ての整形外科医が発見できるようになると、自動車事故損保の任意保険料がいっきに2倍にふくれあがることだろう。医療訴訟で加害者側が圧倒的に不利になる。ただし、圧迫骨折では弧の曲率が急になるだけではなく。弧の中心が凸となるものがある。
- 椎体前縁が凸となる圧迫骨折の例
椎体の軸異常
椎体のアラインメント(軸)異常は椎間板の髄核や線維輪の構造破壊に続発する。一般的には前方すべり症が軸異常の代表格とされるが実際はそうではない。後方すべりもかなり多い。また捻転すれば右が前方すべりで左が後方すべりということも起こり得る。しかし、後方すべりの概念は現在、整形外科医たちにあまり教育されていない。もちろん教科書にもその概念が記載が不十分である。後方すべりは椎間関節が亜脱臼を起こすことにより発生する。椎間関節の亜脱臼は、椎間板が崩壊して非薄化すること、椎体や椎間板の変形によるベクトルの変化で起こる(詳しくは最新脊椎学を参)。通常、椎間関節の緩い関節包を支えているものは黄色靭帯、棘上靭帯、椎間板線維輪の最外側線維である。椎間板が非薄化すればこれらの全ての支持機構が働きにくくなる。よって亜脱臼が簡単に生じる。
当然のことながら上関節突起と下関節突起が限度を超えて重なり合い、これも亜脱臼を起こす原因となる。亜脱臼を起こすと、椎間関節にはわずかな体位変換でも「てこの原理」が働き、椎間関節は容易に破損する。これがいわゆるぎっくり腰の原因となる。また、椎間板の弾性力が失われ、椎体間で異常な横滑りが起こるようになるが、それは筋緊張を解いたときに起こる。よってぎっくり腰は腰に力を入れている時に起こりやすいのではなく、筋緊張を解いているときに、動作を開始しようとする時に起こる。このことを患者に教えて指導しなければ、ぎっくり腰は何度も繰り返す。
前方すべりはこのような椎体の横滑りが起こることがきっかけで、椎間関節や椎弓に異常な重力がかかるようになり、その損傷の積み重ねで徐々に起こるものである。椎間板の弾性力が正常であれば、椎間関節や椎弓には大きな重力がそもそもかからない。椎間関節はそもそも純粋な荷重関節ではない(この辺の基礎構造は別記する)。
さて、今まで我々は後方すべりの存在をあまり考えず、後方すべりがあったとしても無視していたが、実際、後方すべりは臨床上重篤で致命的である。その理由は椎間孔の狭小化にある。ここでは軸異常のXPの読み方を中心に話を進めるので後方すべりの病態生理については詳しく述べないが、後方すべりの概念が論述されてきたのはつい最近のことである。
新しいアラインメントの考え方
次の写真は68歳女性の腰椎側面像(右側臥位)である。まずはこの写真のどこがアラインメント異常なのかを見つけてほしい。 すぐにわかるのはL3の前方すべりであろう。しかし臨床的に重篤なのはそこではない。L4の後方すべりが臨床的に重要なのである。おそらくほとんどの医師がL4の後方すべりの存在を見逃す。L3がこのように辷ることでL4が後方に辷るメカニズムは「最新脊椎学の腰椎アライメント異常症という新たな概念」を参。実際にどのようにすべっているのか図示する。 後方の椎体縁にそってラインを引くと、本来、アラインメントが正常であれば椎間板の位置でそれぞれが交点を持つ。つまり赤丸で示した点が重なるのが正常。L3はL4の椎体縁より前方に赤点が存在するから前方すべり。L4はL5の椎体縁より後方に赤点が存在するから後方すべりである。対照としてほぼ正常なアラインメントの写真を掲載する。
アラインメントが正常な腰椎ではこの図のように椎体後方のラインが椎間板の高さで重なり合う。ただし厳密にいえばこの写真もアラインメント異常がある。L3/4では交点が椎間板よりもやや下方で交わっているからだ。交点が椎間板レベルよりも上方にあれば前方すべりで、下方にあれば後方すべりである。よってこの写真ではL3、L4、のアラインメントが少し悪い。わずかに後方すべりの要素がある。
後方すべりが重篤である理由
ここではXPが見やすいように前出のアラインメント異常XPに着色した。このXPのどこが臨床的に重篤かわかるだろうか? 後方にすべると椎間関節の亜脱臼がほぼ必発する。そういう目でL4/5の椎間関節を見てほしい。L4の下関節突起とL5の上関節突起には隙間が開いており、しかも上下にかなりずれている。これをわかりやすくするために関節面に着色した。このように着色すると関節亜脱臼の様子がよくわかる。本来ならば椎間関節にこのような隙間はない。後方にすべる=関節の亜脱臼が必ず起こっている、ことを示す。脱臼が存在しなければ後方にすべることは物理的に不可能であることが理解できる。
しかしながらこのような基礎的な構造を実際には腰痛の専門家(権威と言われる教授)でさえ理解していない。例えば下の図はMacnab腰痛第3版からの転載だが… 「上の椎体は下の椎体に接近すると、後方関節の傾斜のために後方へ移動し、後方脊椎すべり症を生じることがわかっている。Macnab Ⅰ:Backache.Williams & Wilkins,Baltimore(1977)」と書かれている。これは誤解もいいところだが、彼が書けば普通の整形外科医はみんなそう信じる。圧倒的におかしいのは椎間関節はこの図のように寝ていない。どちらかというと 垂直に近い。さらに言えば、椎間が狭小化しても後方すべりが全くない人はごまんといる。
あげあしをとるわけではないがもう一つ付け加えると(以下の図もMacnabⅢp.186より) 「腰椎の進展は線維輪の全部線維により制限される。変性変化によりこれらの線維の弾性が失われると、罹患髄節あるいわ髄節群は過伸展する。」とある
…制限される。までは正しい。次に変性で線維輪の弾性が失われると…過伸展ということ自体おとぎ話である。過伸展は弾性が失われるから起こるのではなく、髄核が崩壊して椎間板の支点が下がり、不安定になるためにおこる。彼らの言うような変性で線維輪が伸びきってしまうという発想は物理的なベクトルを考えていない。また、この文章で決定的におかしいのは後方すべりが過伸展で起こると述べているところである。腰椎は前弯ブリッジとなっていて、過伸展になるほど前方へ辷りやすくなるからだ。
後方すべり症例の調査
ここでは調査結果の表をいちいち掲載するのを省く。 調査内容は腰痛・神経痛を主訴に当院に6/19~6/27来院した新患18名全員の腰椎側面XPを調べた。年齢は17歳から85歳(平均年齢50.6歳)。2ミリ以上の後方すべりの症例を対象とした。後方すべりは18名中11名に存在(61.1%)。かなり高率に存在する。後方すべりの椎間孔異常
後方すべりがいかに神経根を損傷しやすい状況にあるかがわかってくると思う。後方すべりは単なるアラインメント異常ではなく、腰椎の不安定性、動揺性という意味で腰にとって致命的ともいえる。次の図はさらに椎間孔に着色したものである。 後方すべりを起こしているL4/5の椎間に存在するL4の椎間孔はかなり狭小化が進んでいる。一方前方すべりを起こしているL3/4間のL3椎間孔は圧倒的に広い。これを見れば臨床的に重篤であるのが前方すべりではなく後方辷りであることがわかるだろう。前方すべりを手術的に整復しようとする医師はこのことを十分に認識していてほしいと願う。後方すべりでは関節脱臼をはじめとする不安定性が必発であるから、腰椎への少しの衝撃が加わっただけでも関節突起が神経を傷つけることが予想される。したがって後方すべりの存在を見逃してはならない。これほど重要な後方すべりの存在を、これまで整形外科医は見逃し続けてきたのである(近年ようやく議論されるようになった)。
立位と臥位でのアラインメントの違い
アラインメント異常はこれまでの既成概念とは違い、前方すべりよりも後方すべりの方がはるかに多く、臨床的意義も後方すべりの方が重要である。アラインメント異常は椎間孔を狭小化させ、神経根を損傷させる可能性が高い。しかし、忘れてはならないのは、アラインメント異常はあくまで動的なものであり、静的にXPを撮ったから解明されるものではないということ。腰痛患者のアラインメント異常を把握したいのなら、最低でも立位と側臥位(できれば座位も)を撮影して比較しなければならない。次に示すのは筆者の側臥位と立位でのアラインメント比較である。 通常、腰椎の側面像を撮影する場合、側臥位で撮影する場合が多い(この図の左)。側臥位では腰椎に重力がかかっておらず、筋緊張もないので脊椎の不安定性が過剰に現れる。一方、立位では筋の緊張が加わるためアラインメントはよくなり、腰椎のずれが少なくなる(明らかに右のラインの方が重なり合っている)。このことは知識として持つべきものであり、アラインメントを調べたいのならこのように異なる体位で撮影して比べる必要がある。どちらか片方を撮影して動的アラインメント異常を説明するのは片手落ちと言わざるを得ない。シュモール(Schmorl)結節の読み方
シュモール結節の臨床的意味とその読み方を知らない医師は多い。それはシュモール結節を単なるえくぼくらいにしか思ってないからだろう。シュモール結節はまだMRIで椎間板の変性像が現れない時期での椎間板変性の予告として意味をなすがそのことの認知度は非常に低い。まずはシュモール結節を単純XPで読めるだろうか? このXPは19歳女性、腰椎側面単純XP(正常)右側臥位で撮影とたびたび「正常腰椎写真の例」としてここで取り上げているものだが、しっかりXP写真を読むとところどころに椎体の凹みが存在することが分かる。シュモール結節の臨床的意味だが…。これは椎体に付着している硝子軟骨板が一部破壊されていることを意味している。このXPのL3/4を拡大してみる(わざと暗くしてある)。シュモール結節がわかる?
では答え。次の図は私が骨のラインをわかりやすく着色した。
これを見ると骨皮質の乱れがわかる。ではこの乱れが何を意味しているのか?わかりやすくイラスト化したのが次の図である。 青の着色部分は硝子軟骨板。この軟骨板が破壊されてこそ骨皮質が破壊されていく。おそらく軟骨板は線維輪に引っ張られ、スライドするか剥離するかで亀裂が入る。亀裂部分では骨皮質にまともに圧力が加わるため浸食されて凹みができると推測される。
このようにイラスト化し、シュモール結節の意味を理解しようとすれば、これが椎間板変性のきっかけとなっていることが想像できよう。ただし、おもしろいことにシュモール結節は下部腰椎にはできにくい。つまり椎間板ヘルニアを起こしやすい個所にはあまり出現しない。この理由はわからない。おそらく力学的に上位腰椎と下位腰椎の衝撃吸収のシステムがことなるのであろう。髄核は急激に圧力をかけるとビー玉のように硬くなることは既知であるが、そうした急激な圧力のかかり方が上位と下位とで異なるのではないかと推測する。以下執筆途中。一旦終了。
整形外科以外の科で、きょう初めて、L2,L3にシュモール結節があると言われました。医師がコメント出来ず、私は知らなかった言葉を調べました。
6年前、重いものを持って腰がぼきっと。ぎっくり腰だ、1週間安静にすれば良くなる、と信じて待ちました。その翌年の骨シンチで圧迫骨折と判明し、驚きました。椎間板ヘルニアもあったそうです。
今回の造影CTでは圧迫骨折の所見は見えなかったようですが、徐々に悪化しているということでしょうね。足の指の一部の感覚異常や時にあるごく軽い排尿障害はシュモール結節とは無関係で、様子見で、よろしいでしょうかね。
シュモール結節は自動車でいうとボンネットのへこみです。一種の小さな陥没骨折です。骨折は放置しても治るので問題はありません。排尿障害はシュモール結節とは別の原理です。あまり関係はございません。様子見でいいでしょう。
L2にシュモール、L4には椎体の高さの半分くらいまでのシュモール、L5にも激しいシュモールあり。L4〜5左側根圧迫。脊柱管狭窄、左右大腰筋のバランス異常、椎間板変性、腰椎変性、やや側弯症、生理的湾曲皆無、脂肪髄などがある33歳です。
仕事は鳶。年々悪化し、仕事終わりには、坐骨神経で歩行困難。間欠性跛行ではあるが、横になるまで、休んだりしても痛みはあり歩行困難。
オペはまだ未適用で毎日苦痛です
治すことを考えるよりも悔いのない人生を送ることを考えることをなるべく早くすることを強くお勧めします。治すだけが人生ではなく、病気にならない環境づくりでいかようにも背骨の病気を避けることができます。背骨を潰す職業についているのに、背骨を改善させようとすることは穴の開いたバケツに水を入れるようなものです。背骨を治すのではなく人生を有意義にするために何ができるのか?という考えをすることができれば、初めて私たちの言葉に聞く耳が生まれてきます。きく耳ができないうちに私たちがあなたへの最良の策を申し上げたところで、馬の耳に念仏です。最良の策とは何か? それは背骨を医学的に治そうとすることではないということです。根本的に人生から考え直すことです。背骨の不調は「人生を考えるチャンス」と捉えるとよいのですが・・・