変性と適応と劣化
壊死した細胞は取り除かれて新生へ向かう場合と、取り除かれず瘢痕となって新生を阻害する方に向かう場合があります。後者はいわゆる変性であり、これを重ねることが老化でもあります。変性の中には腫瘍化なども含まれこれは細胞適応と呼びます(後述) ですが基本的に瘢痕化した組織も数十年のスパンでは除去されていきます。例えば軟骨は再生されず加齢とともに不可逆的に擦り減っていくと思われていますが、この考えはおそらく間違いでしょう。例えば離断性骨軟骨炎では軟骨片は滑液に栄養され増殖することは既知の事実です。さらに私の研究では定期的に治療をしている膝関節では変性がほとんど進まないことを証明しています(治療が適切であれば歳を重ねても変性は簡単に進まない)。進まない=修復されている と考えるに至ります。すなわち変性は一方通行ではありません。
すると、老化の概念をもう少し科学的に考察する知恵が生まれます。 老化という不可逆変性は不可逆なのではなく、変性した細胞、瘢痕化した細胞が、細胞適応を起こした細胞が組織の新陳代謝を阻害し、その結果、組織壊死のスピードを上げ…の悪循環のために組織新生が追い付かなくなった状態ととらえることができます。
瘢痕化・適応化細胞、炎症の燃えカスの除去作業は常に行われているのですが、それが追い付かなくなることが老化であると定義します。 わかりやすく言うと、組織は劣化と新生のスピード合戦を行っていて、新生スピードが劣化スピード上回っている間は障害がおこりません。幼少期は新生スピードが優っているので老化がほとんど起こりません。
しかし、遺伝形質により劣化スピードが速い箇所を持つ場合があります。例えば左右の関節が非対称という形質を持つと、関節面積の少ない方は劣化スピードが速くなります。 この劣化スピードを医学的に考察し、遅くさせるのが日常損傷病学の治療方針の基軸となります。 これまでの医学では劣化スピードが速いことは病気に分類されていません。つまり病気ではなく治療対象ではありませんでした。
劣化スピードは加齢とともに早くなり、現医学治療では追い付かなくなることも理解できます。ですが、様々な手法で劣化スピードを遅くさせる方法があります。その方法を考案していくことが日常損傷病学です。ステロイドやTNFα阻害剤などをうまく治療に取り入れていくことで劣化スピードを操作できます。そして修復スピードを高める医療を重ねれば、さらに健康を維持できるようになります。