修復

3、修復

人間の修復スピードは我々が想像している以上に速く驚異的です。しかしながら歳をとるごとに修復スピードは遅くなります。高齢になるにつれ取り除けない炎症の燃えカスが蓄積し修復活動の障害となること、ホルモンの不活性化により新陳代謝スピードが落ちるからなどの理由からです。 ここで重要な考え方として「治療とは外的に修復速度を速める手段」であるということです。 この考え方を適応させると以下のようになります。
  1.  生体は敢えて治療しなくてもほとんどの場合症状が自然治癒する
  2.  安静や摂取制限など日常生活を正すことで完治に近い状態にできる
  3. 治療時間を長引かせると活性酸素(仮説)などの燃えカスが多く蓄積し不可逆となる、
  4. 慢性症状とは炎症(組織損傷)の広がる速度と修復速度がつりあった状態である
  5. 慢性症状の急性増悪とは劇的に損傷速度が上昇した状態である
  6. 回復期に適切に治療をすれば修復速度が劇的に増し即効治癒する
  7. 急性増悪期に治療をしても損傷速度を落とすだけで症状増悪が止まることがない
これまでの医学には治療に速度の概念が皆無でした。しかしながら実際は「治療とは速度の問題」なのです。 上記より、何のために治療をしているかの目的が明確化されます。
1より、治療は修復速度を高めるためにするのであり治すことが目的ではなく、速く治すことが目的であるということです。「速く治せないのなら治療の意味があまりない」のです。
2より、損傷をやめさせれば多くの病気は治る、または治らない病気でも炎症を抑えれば現状を維持できます。唯一の根本治療は損傷を起こさせないよう日常生活を変えさせることです。薬をのませること、注射をすること、手術をすること、よりも大切なことが日常生活変えさせることです。しかし、どう変えればどう治るか?のガイドラインがありません。研究する医師があまりにも少ない状況です。
3より、治療期間を短縮させないと、高齢になったときに様々な不調に悩まされることが理解できます。1週間で治るのと、1年で治るのとでは後者の方が高齢になった時に不調が出やすいということです。ならば外傷や骨折でさえ「全力で修復速度を高めるための治療」をする必要があることがわかります。外傷には積極的な治療をせずというこれまでの医学の考え方を変えなければなりません。
4より、積極的な治療を続けているにもかかわらず症状が軽快せず同じであるという症例への対処方法がわかります。ほとんどの医師が「治らないのなら積極的な治療は無駄なので軽い治療にとどめておく」という現状ですが、その考え方は改め、「現状を維持するために積極的な治療を継続して行う」という考え方が生まれます。高齢になると修復速度の低下のために日々の生活の全てが症状の悪化の原因になり、放置すれば悪化が進行します。よって高齢者の治療は「改善させるため」ではなく「悪化を最小限に抑えるため」という新たな考え方を持って臨んでいただきたいのです。 また、重労働者も積極的な治療をしない場合、患者は社会生活で症状が悪化していきます。それを指をくわえてみているのではなく、患者が少々無理な社会生活(仕事)を送っていてもそれを支えてあげる治療というものを確立させる必要があります。貴重な労働力を失わせないためです。慢性病に積極的治療を続けるのは無駄という考え方は捨てます。
5より、急性期の治療を数回やって効果がなかったとしてもあきらめてはいけないとう教訓となります。坐骨神経痛の患者に4~5回毎週連続で硬膜外ブロックを行い「全く効かない」と言われてもあきらめてはいけないのです。
6より、治療を続けているにもかかわらず症状が急に悪化する場合があります。この時はさすがに治療している側としては落胆しますが、そこを奮い立たせ、急性期のさらなる積極的治療を行うべきです。そうしなければ患者の人生の質は極端に低下するでしょう。
7より、これは前にも述べましたが、「悪くなるのは患者のせい、よくなったら医師の治療効果」という稚拙な考え方を捨てていただきたいのです。回復期にはプラセボでも症状が改善するのですから。己の治療に酔わないでください。腰椎椎間板ヘルニアで間違った箇所を手術しても症状が改善してしまうのは回復期に入院させて安静を保持させたからです。医師たる者、治療実績は常に過小評価する強靭な精神力を持つべきです。 修復スピードを低下させるものとして炎症による組織の浮腫があります。我々はこの「修復スピードを低下させるもの」を除去してあげなければなりません。
「修復速度を上げることが治療の意義である」という観点に立つと医師がやらなければならないことが明確化されます。しかし上に挙げた7つはどれも医師たちに強靭な精神力を必要とするものばかりです。日常損傷病学は強靭な精神力を持つ医師たちを育てるためにあります。これまでのようにガイドラインに従って切り捨て医療をしていると高齢化の波に医療が太刀打ちできなくなります。

修復」への2件のフィードバック

  1. 30年前に漢方薬の副作用で左肩甲骨下部に強烈な硬縮が発生しました。
    以来様々な治療をしてきましたが治るどころか近年になってますます固く
    なり生活にも不自由しております。患部周辺の血流が滞ってしまった状態です。
    先生の治療で少しでも良くなればと思いメールしました。
    日にちと時間を指定してもらえればいつでもどごへでも伺います。

    • 拘縮の原因には神経根の障害が必ず存在していることを前提とし、私の場合はその神経根を改善させるためのブロックを行います。ただし、それだけでは不十分であり、神経根への治療と同時に拘縮した箇所の血液灌流を改善させる特殊な治療が必要です。それは特殊な指圧やマッサージであったり、カイロプラクティックであったりします。そういうものを併用しなければ30年来の病気は治せないと思います。

       私の治療技術はおそらく高い方であると思いますが、神様ではありませんので何でも治せるわけではありません。おそらく私だけの力では難しいと思います。

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