日常治療とブロック依存形成
私の外来では患者のほぼ全てがブロック注射を希望して来院します。一人当たりの注射本数は多い人で8~10本、少なくても2~3本で、一人当たりの注射本数が非常識なくらいに多いと言えます。これほど一人の患者が多くの注射を希望する理由として、「私の注射は痛くなく安全で効果が高い」というものがあります。私は日常病を治療してきましたが、それは命には関わらない治療なので「注射が痛いなら患者が受けに来ない」「リスクが高いなら受けに来ない」ということが起こります。よって日常病治療のためには、必然的に痛くなくすぐに終わってさっさと歩いて帰ることのできる注射へと工夫を迫られました。私のブロック技術の向上と共に、「受けたくない怖いブロック注射」が「気軽なカジュアル注射」へと変わったことになります。このブロックのカジュアル化が招いた悪しき出来事…それは患者がブロックに依存してしまうことでした。
ブロックをしなければ、患者は自分の行動能力が低下することを痛感します。患者たちはブロックを継続することで自分の能力を高め続けようとし、「悪くなったらまたブロックをしてもらえばいい」という安易な考えをするようになってしまいました。彼らは「治しても治しても再燃させる」のです。ブロックが活動性や能力を高めてくれるので、彼らはそれをよいことに「手加減せずに働く」ことを続けます。
食べ物を与えたら与えただけ食べる犬のように、治しても治しても治しただけ体を傷つけて戻ってくる「治そうとしない」患者。ブロック依存症です。完全にブロックに依存した生活を送っていますが、本人は依存していることに気づきません、私がブロックをやめると極端に仕事能率が低下し職場を解雇されかねない人々です。
これらのブロック依存の患者たちは定期的に私のブロックを必ず受けに来ます。仕事をするためにブロックを受けにきますから、生活の中の必須項目として私が取り入れられています。2週間に1度、または1週間に1度の割合で来院します。このようなブロック治療を長年継続する場合、問題となるのは繰り返しブロックすることによるリスクです。ブロックは患者の生活を支えていますから、リスクが高ければ依存から抜け出させるべきであり、リスクがないのなら継続しても構いません。実際問題、高齢者にしっかり働き続けていただくにはブロックが必要であり、ブロックは国益を生みます。
結局のところブロック依存が問題となるかどうかは医師のブロック技術にかかっています。ブロックをいかに愛護的に合併症を起こさずにできるかにかかっています。ブロックに使用する針の細さなどにも依存します。自信がないのなら患者のリクエストを拒否するしかありません。また、どのくらい長期間安全にブロックを継続できるかについては、実績がそれを証明します。実績がないうちは患者をブロック依存にさせないほうが賢明でしょう。