L4/5下縁における水平断T2強調像
- この図はL4/5のやや下位に位置する高さ(L5椎体レベルの上縁)の水平断T2強調画像である。
MRI矢状断でS1ルートを追う
左図はこの症例の右最外側の矢状断像、右図は26歳ほぼ正常腰椎のMRI、ほぼ同位置を切っているが、左図の症例のほうが若干右図よりも外側切っている。その理由はS1のルートが左図の方が末梢まで追えるからである。S1ルートが外側へ末広がりとなっていることはいわずもがなである。左図は一見特に異常が認められないように見える。しかし厳密にいえばL4とL5ルートの硬膜嚢の広さは大きい。右図よりももっと外側に位置するこの場所で、この大きさの硬膜嚢(白いスペース)は異常。これは脊柱管が極度に正中を圧迫されているため、逃げ場を失った硬膜嚢が両外側の外側陥凹付近にまで圧排されたためと考える。 前の図よりも若干左(中央)へシフトした位置での矢状断。真ん中の図がこの症例で、左右の図は26歳ほぼ正常腰椎のMRI。青の矢印に注目。これはS1ルートの通り道にマーキングしてある。このマーキングからわかることは左図、真ん中図、右図の順に外側からスライスられているということだ。青の矢印が尾側にあるほど外側のスライスである(理由は前述)。
- そして緑の矢印がS1ルートの硬膜嚢である。これを見て何が異常か?読めるだろうか?
- さらに左にシフトさせた矢状断。左図はこの症例。右図は26歳正常腰椎MRI.
この図は正中での矢状断。左図は症例患者のMRI,右図は26歳正常腰椎。左図ではL4/5レベルで著明な狭窄が認められるが、それ以外に異常がある。それは右図の正常腰椎ではうす黒い線が見える。この線はS2からS5のルートである。左図ではうす黒い線がほとんど見えない!これを異常所見ととるかとらないか?は判断が難しいし、この所見に臨床的意義があるかどうかはわからない。しかし、正常ではない。
注意して見ると、このような正中矢状断がからっぽとなる現象は神経痛を有する患者、高齢者に散見される。理由は前にも述べたようにすでにL4/5のレベルで外側に神経根の何割かが圧排されているからであるが、他に張力が高く神経根がたるんでいる余裕がないため、早期に左右に移動するとも考えられる。この異常については今後の課題としたい。
さらに異常を指摘すると、S2以下の脊柱管前後径が明らかに狭い。私はこのことに今はじめて気付いたのだが、「高齢になれば仙骨も変形し脊柱管が狭窄する!」今まで誰かこのことを知っていた者はいただろうか?この図は正中矢状断の仙骨。数字は横縦比、つまり椎体の横径÷縦径を計算したもの。左図はこの症例。右図は26歳正常腰椎。
左図の横縦比は右図の倍近くある。仙骨も年齢とともに変形し縦が短く横が太くなっていくことがわかる。そしてその後方にある脊柱管は当然のごとく骨性に狭くなる。その狭窄の程度は見事なものだ。
この図を見れば、高齢者のコーダルブロックがいかに難しいかがわかるだろう。針の穴ほどの隙間しかない! 少しでも角度が違えば入らない。これは仙骨部硬膜外ブロックが腰部硬膜外ブロックよりも簡便だと思っているドクターへの警鐘である。仙骨部の狭さには個人差も多いが、このように特に狭い人もいることを念頭に入れておく!
ちなみに「高齢者になれば仙骨が変形する」のはこの症例が特殊なわけではないことを付け加えておく。実際に高齢者と若年者のMRIを比較すれば、年齢とともに仙骨が横長変形を起こすことは疑いの余地がないことだとわかる。
- この図は正中より若干左にシフトした位置での矢状断。真ん中の図が症例。左右の図が26歳正常腰椎MRI。
- この図は順に正中より左へシフトさせた矢状断。左から1と3番目が正常腰椎。左から2と4番目がこの症例。
これらより、S1ルートはL4/5で正中を走り、そのすぐ下のL5の椎体レベル高位で脊柱管の最外側へ追いやられ、それがL5/S1レベル高位で椎間関節突起で正中に押し戻され、そのすぐ下で関節に接しながら外側の仙骨の椎間孔に入り込んでいく。このように左右にジグザグ走行をしている(以下にイラストでこのことを説明する)。 S1が障害される機会が多数あることを示す。