2017年治療成績
はじめに
認知症の根本的な原因は脳への血流不足(血管障害)です。よって、脳の血流を回復させることができるのであれば、認知症という病気は制覇できると言えるでしょう。また、ごく最近の研究で脳には神経芽細胞が大人にでも存在しており、脳神経細胞は再生することがわかってきました。つまり、血行を改善させることができれば、一度壊死した脳神経細胞でさえ再生の可能性があり、理論上は進行した認知症も改善させることができると言えるでしょう。
今回私は脳の動脈を拡張させることができる頚部交感神経節ブロックを認知症患者に行い、MMSE(ミニメンタルステート検査)で19点を24点まで回復させた例を経験しましたので報告します。超高齢化社会における世界中の困難の一つである認知症に対し、病初期に頚部交感神経節ブロックで治療を開始すれば抑止できる可能性があり大変期待されるところです。
症例 77歳女性
現病歴
数年前から徐々に道に迷いやすい、同じ言動を繰り返すなど認知症と思われる症状が出現。2015.11.9 息子が心配し77歳の母親を連れて私の外来を初診。
既往歴
網膜色素変性症 視神経乳頭浮腫あり、1年に3~4回ケナコルト注射を行っている
症状は目がかすんで見えにくい
現症
朝ごはんは覚えている 100-7=93 OK 生年月日OK 新しい場所は迷いやすい 3分前の同じことを言ったり聞いたり
治療
2週間に1回の上頚神経節ブロック(以下SCGB)を開始する。
当初、1%リドカイン2㏄をC2/3の高さの上頚神経節(頸動脈と頸静脈の間に存在する)をめがけてブラインドで左右両側にブロックする。
経過
治療後に視野が広がり、かすみ目が改善される 認知症は進まず2016.9の段階でMMSE22点
同様に2週間に1回のSCGBを行うが2017.3 MMSE 19点となり認知症が-3点分進行
症状の悪化の具体例
②「結婚させなきゃ」という話を1日に30回ぐらい言うようになった
③「妹から電話がかかってきた」という作り話
④「わたしのせいで・・・」と号泣するようになった
半年で-3点となったことに動揺しネットを検索
「MMSEでは23点が認知症かどうかの基準だが、アルツハイマーは治療しないと1年間に 3点下がる。例えば、20点の方は3年間で11点になる。10点は尿失禁が始まる平均値なので尿失禁が始まる可能性がある。早期に発見してアリセプトを投与すると、最初の2年間は1点程度しか下がらない。」鳥羽研二 独立行政法人国立長寿医療研究センター病院長 の内容を読み非常に動揺し、担当医に相談してアリセプト服用を開始する。 2017.5.末 よりアリセプト服用開始。
SCGB治療強化
2017.6より 1%→2%キシロカイン(薬液濃度を倍)にし、超音波診断装置を用い精密に頚部交感神経節を狙うことを開始。
上頚神経節ブロックを精密に行うと反回神経麻痺→嗄声・呼吸困難・むせるなどが起こるため、高齢者に対してはこの副作用を抑えるために敢えて神経節を直接狙わない。しかし、認知症が進行したため、副作用には目をつぶり、精密に直接的に狙うことを開始した。毎回反回神経麻痺が出現するため、ブロック後は必ずむせるようになったが、辛抱してもらう。
SCGB治療強化の結果
・日時(各1点):時間の見当識を評価
今年は何年ですか。
いまの季節は何ですか。
今日は何曜日ですか。
今日は何月ですか。
今日は何日ですか。
・現在地(各1点):場所の見当識を評価
ここは何県ですか。
ここは何市ですか。
ここは何病院ですか。
ここは何階ですか。
ここは何地方ですか。
の質問を息子さんが3月から毎朝患者にこれらを出題。2017.5月末までは1問もできない状態だったが、5月末にアリセプトを開始1週間後くらいに「今年は何年ですか。」の質問のみ「平成29年」と答えられるようになる。
2017.6末 治験の誘い
物忘れ外来の先生より「アデュカヌマブ」という新薬の治験の誘いあり。しかし、治験を受けるにはMMSEで24点以上を獲得しなければならない。
強化した上頚神経節ブロック注射を開始数回後から、「今は何月ですか。」の問いに、以前は「11月」などと大きくはずれていたのに、「5月…じゃなかった6月!」と正確に答えられるようになる。
2017.8月初旬にはさらに「今は梅雨」「東京都」「〇〇市」「〇〇病院」「2階」「関東地方」とすらすら答えられるようになる。
また同じ話は1日30回→1回に減り、作話をしなくなり、感情失禁は週に1回に減る。
2017.8.23 治療は大成功
アルツハイマー型認知症の治験(治験薬:アデュカヌマブ)のための1次検査が行われ
(MMSE)30点満点中24点以上必要という条件を見事にクリア、その後の別の2種類の知能検査もクリア。短期記憶MMSE19点→24点以上に数か月で改善し、感情失禁などその他の症状も劇的に改善した。
既往に網膜色素変性症があり、視神経乳頭浮腫があり、眼科で定期的にケナコルトの眼内注射を受けている(軽症ではない)。症状は視野がぼやけて見える。進行すると視野が狭くなり、視力を失うこともあるという難病であるが、上頚神経節ブロックをすると直ちに視野がクリアになる(これは治療当初から)。そして強化したブロックを開始して以来、視力は落ちるどころか向上した。視野の狭さを訴えることもなくなり、現時点ではブロックをしていない時でさえ視野がクリアになった。眼科の定期検診では「不思議なことに乳頭浮腫が改善しています」と言われ、眼内注射は中止となった。
考察
2017.3にMMSE19点が2017.8.23.には24点と認知症の症状が劇的に改善しました。この改善の要因として5月末からのアリセプトの開始が考えられますが、アリセプト単独でここまでの劇的な改善はあり得ないため、6月から行った上頚神経節ブロックの強化がこの改善に大きく寄与していると思われます。さらに、視野狭窄や視神経乳頭浮腫も治療が不要なまでに改善していることから、これがアリセプトの効果ではないことは明らかであり、この二つから、上頚神経節ブロックが大きく寄与していると思われます。
このように、SCGBは認知症に劇的な効果があるものの、強化前のブロックでは進行を抑止できなかったことから、「極めて精密に的確に狙うことができなければその効果は発揮されにくい」と思われます。つまり、認知症に効果を発揮させようと思えばSCGBは技術的に難しく施術には訓練を要するでしょう。
さらに、通常は頚部交感神経節ブロックを両側に行うことは禁忌とされるため、このリスクを避けるため、安全のガイドラインを死守必要があり、また、相手は高齢者で合併症も多いことから「医師ならば誰もがたやすく行える」ものではありません。今後私は後輩たちを指導しながら、この技術を広めていきたいと思っています。
奇蹟的な回復の裏に心のフォロー
2017.5月には患者と介護者伴に精神的に非常に落ち込んでおり、認知症の進行に対して深刻に悩んでいました。いわゆる「心の病」も認知症の進行を早めてしまうと思われ、患者・介護者ともに心のケアが必要です。
このため、当院では秘書が心のケアを担当し、ご通院中もカウンセリングしながらより良いご回復への道を指南しつつ、患者さまだけでなく介護者にも加持祈禱を行っていただく(息子さんのご希望もあり8/13にまずは息子さんから本格的ご加持実施)フォローをさせていただきました。心を支えることが回復にどこまで寄与しているのかはわかりませんが、私たちは本当の意味での心のケアも考えながら治療成績を高めていく所存です。非科学的ではありますが、心のケアも治療には重要であると思います。
いつも大変お世話になりありがとうございます。
この記事の当事者(息子)です。
F先生の投稿日時(2017年9月7日)以降の経過をお伝えします。
結局、この治験に関しては治験参加のための1次検査で合格ラインのMMSE24点以上を見事にクリアしましたが、2次検査のMRIにおいて(治療の必要のない)陳旧性の微小脳出血痕が8つ見られたため(※適合基準は4つ以下。静脈注射による治験薬のため基準が厳しい)治験は中止となりました。
しかし、私の実感としては母の認知症の状態は進行が完全にストップし、改善に向かっているように見受けられました。
短期記憶のなさと同じ話を1日に十数回するという症状は残っているものの、作話は完全になくなり、感情失禁も数か月に1回となりました。
また、これは私自身も心がけていたことではありますが、日常生活において母が不安になることで認知症が進行してしまわないように、なるべく明るく楽しい雰囲気を作ろう、笑わせようと努めたところ、悲観的な言動がほとんどなくなりよく笑うようになりました。
持病の網膜色素変性症(眼の難病)に関しても「眼がよく見えるようになった!」としきりに言うようになり、眼の浮腫を抑えるためのステロイド注射は年3~4回⇒年1回程度に減少しました。若干夜盲症の症状は残っているものの、視力に関しては眼鏡が必要なくなるほどの向上がみられています。
そして驚いたことに、認知症の出現とともにこの3~4年できなくなっていた趣味の編み物が再びできるようになりました!
母は「いつもお世話になっているF先生とAさんに感謝の気持ちをこめて靴下を編むんだ」と言うようになり、数か月かかりましたが以前はよく編んでいたものの、ここ数年編み方を忘れて完成させることができなくなっていた毛糸の靴下を2足、編み上げました。
今年(2018年)に入り、再び物忘れ外来で薦められた治験を受けはじめました。
今回の治験薬は前回と同じく、脳内βアミロイドの破壊や産生抑制により認知症の改善をねらうもので、静脈注射ではなく、経口薬によるものです。
治験参加のための1次検査では再び合格ラインのMMSE24点以上を獲得しクリア。2次検査のMRIも、今回は経口薬のため基準が前回より緩くクリア。
3次検査(最終検査)のアミロイドPETに進みました。
アミロイドPETは一昨年に物忘れ外来で受けており、その際は陽性でした。
今回の3次検査のアミロイドPETはいつも通っている物忘れ外来ではなく、他院(板橋区)で行われました。
治験参加の条件はアミロイドPET陽性(脳内にβアミロイドがたまっている)であり、当然今回も陽性であろうと私も物忘れ外来の先生も思っていたのですが、本日判明した結果はなんと「アミロイドPET陰性」でした!(=今回も治験は中止)
これはつまり「(アルツハイマー病の原因であり進行する要因と考えられている)βアミロイドが、治験を受けるほどたまっていなかった」と判定されたことになります。一昨年は間違いなく陽性判定であり、その後母は確かに認知症の進行がみられたのですが(MMSE22点⇒19点へ悪化、作話、感情失禁(号泣)などが出現)、症状の改善とともにβアミロイドも減っていった、と考えられるのではないかと思います。
自助努力としては、サプリメントの摂取(☆アルギニン&グルタミン(血行促進効果・免疫力改善効果)、☆大豆レシチン(昨年105歳まで生涯現役で医師をされていた日野原重明先生が毎日飲まれていたもの。親油性と親水性の両方の性質を持ち、血管の内壁にこびりついたコレステロールを溶けやすくしたり、細胞の中の老廃物を血液の中に溶かし込んで血行を良くする。さらに脳細胞・神経細胞の活性化に効果があるとされている)、☆オメガ3(EPA&DHA)(血液をサラサラにしたり、血管を柔らかくして動脈硬化の予防・改善効果が期待できる。
また、活性酸素の消去能力を高める)がありますが、本質的に母の認知症が改善したのはやはり月に2回~3回受けていたF先生による上頚神経節ブロック注射と、僧侶O先生・Aさんによる加持祈祷によるものだと思います。
現時点で母は年齢相応の老化現象はありますが、ありがたいことに認知症としての症状は短期記憶障害と同じ話を1日に十数回するというもののみであり、その他例えば徘徊・暴言・抑うつ・異食・せん妄などといった日常生活上介護が必要な症状は全く出ていません。
おそらく今後も今の治療内容・治療ペースを守っていけば極端な悪化はしないのではないかと思います。
私の父は多発性脳梗塞によるパーキンソン症候群で11年間の在宅介護の後、療養型の病院に4年間入院し先日亡くなりました。
本当は父にもF先生の治療を受けさせてあげたかったのですが、間に合いませんでした。
ですが幸運にも母は間に合い、奇跡的な回復を遂げました!
感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます!
今後ともよろしくお願いします。
治験不合格! おめでとうございます。アミロイドの沈着が消失していたという事実は、治験の適応の有無を調べる以前に、この薬の必要性を根底から覆すような重大な事件です。それなのに、治験を使用としている医師がその重要性を簡単に無視することが極めて重大な問題だと思います。「良心の残っている医師」であるならば、「治験不合格」を宣言する前に、「なぜアミロイドが消失したのか?」に驚愕し、まずその理由を知ろうとするものです。治験で名を上げようとする出世欲が、こうも簡単に医師の良心をねじまげてしまうというところを私たちは常に考えなければなりません。科学者は決してフェアなデータを提供するのではなく、こうして自分たちに都合の悪い患者のデータを削除または無視をし、都合のよいデータが出る患者だけを集めて世間に発表するということを知ることが私たちの務めです。たとえ一例でも、「自然にアミロイドが消失する例があった」場合、それはこの実験を根底から覆すのですから、本当は無視してはいけないのですよ。
科学は確かに素晴らしいものですが、数字によるトリックがどこかに潜んでいるものなのです。。
認知症の患者を治療することは、家族にとっても、医療従事者側にとってもたやすいことではありません。特に私のようにブロック注射で治療する場合は患者の協力を得られないのでとても精神的に疲労します。そこを、しっかりがんばって通院させた家族の尽力は偉大です。認知症は家族の尽力抜きでは治せません。
今回のこの投稿は、私たちの治療がアミロイド沈着を改善させることができる証拠の一部として世界に貢献できるものですが、世界に知らせる方法がありません。認知症で困っている家族を救えるというのに、残念なことです。ですが、いつか、私たちの治療が表舞台に立てるように、こうして密かに世間に訴えるということをし続けていきたいと思います。
この記事を投稿していただきありがとうございます。