はじめに
これは治療学の総論基礎として最重要な法則です。治療を加える場所が病気の原因箇所に近ければ近いほど(的確であればあるほど)、治療効果が高くなるという法則です。当たり前だと思うかもしれませんが、実はこの法則はこれまでの医学にはない新知見ですので改めてここに記します。この法則を決して軽視してはいけません。なぜならこの法則を用いることで多彩な合併症を複合した症状の診断学に応用できるからです。現在の医学には痛みに関してその的確な原因を診断できる診断器械も診断検査も存在しません。痛みには複数の原因が重なっていることが多いからです。複数の原因がどの割合で痛みに関与しているのかを完璧に診断できる手法は現医学には存在しません。よってこれらをできるだけ的確に診断するためには「治療をしてその効果から痛みの出所を推測する」という手法が唯一の診断方法となります。
原因箇所を調べるには「原因にもっとも近接する治療箇所が最も効果を発揮する」という法則から導きます。よってこの近接治療効果の法則は現医学で唯一無二の強力な診断ツールになります。
例を挙げると、「左の背中が痛い」と訴える患者が「この痛みは内臓の悪性腫瘍から来るのではないかと心配なので調べてほしい」と要求してきたとします。もしも、この「左の背中の痛み」の真の原因が「左第10胸椎神経根症」であったなら、ここへの神経根ブロックが、他のどんな治療よりも効果が高いはずです。もしも、ここへの神経根ブロックを行い、症状が完全に消失し、それ以来痛みが皆無となったなら、「内臓の悪性腫瘍が原因」であることをほぼ全面的に否定できます。なぜなら、内臓の悪性腫瘍が原因の痛みであれば、神経根ブロックを行っても数時間後には痛みが再発するからです。
この例のように、実際に各種ブロック注射などを用いて「完治に近い状態」にし、その効果の強さから真の疼痛の原因を探る診断法を解説します。この診断法の最大のメリットは、複数の原因があったとしても、ブロックの組み合わせと効果を比較検討すれば、その複数箇所の全てを割り出せるところにあります。いろんな場所へ的確にブロックする技術があれば、この高等診断技術を身につけることができます。
枝葉ではなく根を絶ち切る
痛い場所をマッサージしたり、シップしたり、トリガーポイント注射をすると痛みがとれます。が、原因箇所が「痛い場所ではなく他にある」のなら、その効果は一時的であり、すぐに再燃するでしょう。例えば、その痛みの原因が神経痛であったなら「神経根ブロック」を行えば、痛みは一時的ではなく、かなり長期間絶大なる効果を発揮します。神経根は痛みの場所とはかけ離れた場所に存在しますので、結局、痛い場所は枝葉であり、治療箇所は「根」であることがわかります。枝葉に治療しても完治は得られませんが、根に治療すれば完治に近い状態になります。枝葉をいくら伐採しても次々と生えてきますが、根っこを引き抜けば枝葉が生えることができなくなります。しかし、現存する多くの痛みの治療法は枝葉の処理です。確かに枝葉を切れば当分の間、枝葉が生えてこないでしょう。しかし根が残っているのなら必ず同じように生えてきます。
近接治療効果の法則とは枝葉を治療するよりも、根を治療する方が効果が高いという「とても当たり前な」法則です。この当たり前な法則は、当たり前にもかかわらず、一般的には用いられることはほとんどありません。それは痛みの仕組みが解明されていないため、根本原因がどこなのかをたやすく推測できないからです。
たとえば、頭痛の多くは頸椎から来ると言われていますが…頸椎のどこに痛みの根本原因があるのかを完璧に推測する技術は現代医学に存在しません。一般的な頭痛薬は痛み物質の発生を抑える、または脳を抑制して痛みに鈍感にさせるというように、原因から遠く離れた枝葉に治療しています。だから慢性の頭痛は治りません。近接治療効果の法則に反しているからです。
ちなみに私は頚神経根ブロックをカジュアルに数十秒で行う技術を持っていますので、頭痛の根本原因箇所に即席で治療を行うことができます。頸椎由来の頭痛の多くは後頭神経の根であるC2やC3の神経根症であると推測し、私はそれらの神経根にブロックを行い、慢性の頭痛を実際に長期間軽快させることができます。その効果が非常に高いというところから頭痛の原因が神経根症であったということが逆算で診断できるのです(頭痛の全てを神経根ブロックで根絶できるわけではありません)。
痛み治療に近接治療効果の法則が必須
まず、はじめに痛みに関して現医学はそのシステム解明がほとんどできていない状況であるということを理解しておかなければなりません。例えばテニス肘(上腕骨外上顆炎)の人はしばしばドケルバン病のような前腕母指側に放散するような痛みを同時に訴えますが、現医学ではそのような痛み方がなぜ起こるのかを完全に証明することが不可能です。この患者を完治させるにはどんな治療法があるのかを考えます。整形外科でしばしば行われている治療は、痛みを訴える部分にトリガーポイント注射を行うことですが、実際はトリガーポイント注射(上腕骨外上顆部、前腕部、手関節部など)を行っても効果なしの患者が全体の3割程度存在します。
近接治療効果の法則を用いると、トリガーポイント注射の部位は痛みの根本原因箇所ではないと判断します。私はこうした難治性のテニス肘にC6,C7の神経根にブロック注射を行います。するとどこの整形外科にかかっても治らなかったテニス肘の痛みが劇的に軽快し、それが2週間以上継続します。その結果を受け、テニス肘の痛みの根本原因は神経根にあるという診断を下します。もちろん上腕骨外上顆にも炎症はあると思われますが、痛みの原因のメインではなかったという診断になります。こうした診断は神経根ブロックをカジュアルに自在にできる技術があってこそ可能になります
近接治療効果の法則の逆法則
私は近接治療効果の法則の逆バージョンも診断学に利用しています。例えば、足関節が痛いと訴えている患者に足関節内注射をします。患者はその場で「痛みゼロ」となり喜んで帰宅します。しかし、1時間もしないうちに痛みが再発しました。これをどう考察するかです。足関節にブロックをして痛みがゼロになったのだから、痛みの原因は足だと思うのは一般的な医師です。私はそう考えません。1時間しか効かない(完治しない)ものは「他に原因箇所があるかもしれない」と考えます。この考え方が近接治療効果の法則の逆です。「治らないなら原因箇所に近接していない」という意味です。
私はこのような患者には第5腰神経根ブロックを行います。そして実際に完治(1カ月以上症状が現れない状態に)させてしまいます。完治させることでこの患者の原因は足が少ししか関わっておらず、第5腰神経根が原因の大部分であると診断します。
では、なぜ足関節内注射で1時間痛みが除去できていたのでしょうか? この理由は現医学では解明されていませんが、私は中枢感作により痛覚過敏が起こっていたと推測します。つまり、普段では痛みとして感じない程度の些細な足関節痛がこの患者には存在しているが、そこに第5腰神経根症が加わることで、その些細な足関節痛が倍に感じ取られているという推測です。足関節痛がブロックによりゼロになれば、ゼロを倍にしてもゼロ。よって足関節内注射が1時間程度効果を発揮したと考えます。新たな診断学として、効果時間が短い治療は「根本治療になっていない」とする法則が近接治療効果の法則の逆法則です。
痛み治療が混迷してきた
痛みの治療薬が、最近は次々と開発されました。痛みに苦しむ世界中の人たちにとっては朗報です。しかし、そのおかげで「医師が痛みの根本原因を考察する」ことがお留守になってきている感が否めません。痛みは体のどこかに炎症が起こることで神経がそれを痛みとして脳に伝えます。よって痛みを伝える経路のどこを断ち切っても痛みはやわらぎます。最近は準麻薬系で脳に効かせる疼痛薬が濫用されるようになりました。しかし、近接治療効果の法則からすると、脳への治療はもっとも最悪です。原因箇所からもっとも遠いからです。痛みはとれますが治療することには全くならないからです。これを嘆かないでいられますか?
高等なブロック技術が診断学を変える
近接治療効果の法則は「治すことで原因箇所を推定する」ことに応用できることを述べました。完治させて原因箇所を探る。または治療効果が高い箇所が原因場所に近接しているという法則です。が、この診断学はブロック注射の技術が極めて高いことが前提となる診断学であることがやや難点です。なぜなら、ミス注射をすれば意味がないからです近接治療効果の法則で「治して診断する」方法は、体中のどんな箇所にも狙ったところに100%近い確率で注射薬が確実に入るということが前提になります。ですから、私でさえ、この近接治療効果の法則は最近になってはじめて応用できるようになってきたと言えます。
効果時間により診断ができる
痛みを治療するためにキシロカインなどの局所麻酔薬を用いますが、その効果時間により薬液が原因箇所に命中しているかしていないかをある程度診断することができます。ある程度と述べたのは、病気が進行している急性期と、病気が回復してきている時期とでは、たとえ治療箇所に命中していたとしても効果時間に差が出てしまうからです。急性期は何をやっても効果時間が短くなります(詳しくは減速・停止時間差の法則)を参照してください。しかし、一般的には以下のような法則が成り立ちます
- ブロック効果が1~2時間以内 原因箇所は他にある
- ブロック効果が6時間以内 原因箇所は近い
- ブロック効果が24時間以上 原因箇所である可能性がある
このように診断できる理由は、キシロカインの局所で作用している時間によります。キシロカインは局所の痛みをカットする作用時間が1時間前後です。この1時間前後で効果が切れるのでしたら治療効果はなく、いちじしのぎのブロックになっています。
キシロカインは血管平滑筋を麻痺させ、局所の血流を大幅に増加させますので、この血流増加が実際に患部の損傷細胞のターンオーバーを促し修復に向かわせると考えられます。こうなるとブロックは痛みを除去するだけではなく、患部の改善に一役買うことになります。よってある程度永続的な改善効果が得られるはずです。それが24時間以上続くのであれば、キシロカインは患部付近に浸透していると考え、それ以下ならば患部から少し離れていると考えます。これが近接効果の法則の基本です。
この基本を元にしても、急性期は効果時間が短くなり、回復期では効果時間が長くなります。よって効果時間のみで根本原因を探るという短気を起こしてはいけません。病期が急性期か慢性期か?なども考慮しながら総合的に診断していくしかありません。
ベテランの医師でさえ注射を外す
整形外科医は関節内注射がもっとも上手く、ペイン科の医師は各種神経ブロックや硬膜外ブロックがもっとも上手く、これらの科のベテラン医師は注射が100%に近い成功率がある…と思ったら大間違いです。実は非常にミスが多いと述べておきます。その理由は明瞭です。私が注射治療している患者が他の医師に注射してもらったときに、注射が効かないからです。私は日ごろから「他の医師が治せなかった患者」を中心に治療をしているので、患者側の理由で注射が入りにくい人が多いのです。そういう患者たちが他の医師にかかったときには注射が効かない…つまりミス注射をしているようなのです。
私は左手指の特殊な技で、注射ミスをある程度察知できる技術を身につけています。よってミスしないのではなく、ミスしたらやり直しして、結局100%近い確率で狙った箇所に薬を入れることができます。
ミスを察知する能力もようやく近年身についてきたものです。ベテラン医師といえども、普通に医師をやってきただけではそうした技術は身につかないものなので、結局注射を外してもそれを知ることができません。しかも、決まった患者(入りにくい患者)でかなりの高率で外します。よって近接治療効果の法則が応用できるようになるまでには、かなりの修業を要します。「ブロックで難病を治療していく方法」などをご参考ください。
そもそも治療の概念
接治療効果の法則は、行った治療が根本原因に近ければ近いほど効果が高くなるという法則です。しかしながら「効果が高いこと」「治ること」の定義はないということを常に認識しておかなければなりません。痛みがとれたこと=治ること、ではありません。痛みが1時間しかとれないことを治るとは言いません。同時に1か月痛みがないことを「治る」とも定義できません。そもそも「治る」とは何を意味するのかの概念が現医学では定義されていませんから、治して診断すると私が言ったとしても「治す」とは何を意味するのかがわからないと言えます。
治療の概念を考察するには、まず「病勢減速・停止時間差の法則」を読んでください。治るには時間差が生じることを常に考えておかなければ、治療が効果あったかどうかを判定することができないからです。治療は効果が即効で出る場合もあれば時間がかかってようやく現れるものもあり、自然治癒もあり、治療効果が目に見えず少しずつじわじわ上がってくる場合もあります。
どれが効果ありでどれが効果なしなのかを見極める診察眼力を身に着けることは、実はとても難しいことなのです。患者は「痛みが一生涯消えてなくなることを完治という」と間違った概念を持つ人までいます。痛みが一生消えてなくなるのはその人が永眠に就いた時のみです。完治させても再発させれば痛みがでます。せっかく完治させても3日後に再発させる患者もいます。患者はこの場合、「3日しか効果がなかった。全然治っていない!」と言うでしょう。このように患者は治療と再発の概念を全く理解していないと考えてよいでしょう。
特に、患者自身が自分の日常生活で再発させていることについて理解できる者は皆無に等しいのです。患者にしてみれば再発は完治ではないと言います。このように治療についての考え方は統一されておらず、患者も医師も両者ともども誤解しています。
せめて、医師だけは患者が誤解していることを察知し、治療効果が上がっているかいないかの判定を慎重かつ客観的に行わなければなりません。そうでなければ接治療効果の法則さえ無意味になります。治療と再発の概念を詳しく知りたい方は「日常損傷病学」をお読みください。
常に効果時間をチェックする
患者はネガティブの塊であると考えてよいでしょう。どんなに痛みを除去してあげても「今痛いこと」に対して不満を訴えます。つまり、ブロック注射で13日間痛みが全くない状況にしてさしあげても14日目の今日、痛みがあれば「注射は効かない」と訴えるということです。真実は「注射はたいへん効果があった」わけで、今日の痛みも、初診時の痛みの半分以下になっていたとしても「注射は効かない」と訴えるものなのです。痛みが来院時よりも軽快していることに感謝のかけらも示さない患者が非常に多いように思います。そしてSFの世界のように「全く痛みが来ない身体」にして差し上げることを完治と思っている強欲な患者もいます。
具体例を示すと、肩こりの患者に「ブロック注射で治せますよ」と言うと「どうせ一時的でしょう?」と言われます。「いいえ、一時的ではなく、1カ月とか、ずっと効いてますよ。数年間痛みが軽快している人もいますし…」というと、「でも一生痛みが消えてなくなるわけではないですよね」と言われ「でもそれは、一旦治ったものをあなたが再発させているんですよ。傷めつけても痛みが来ない人間なんてこの世にいませんよ。」と言うと怒りをあらわにする患者がいるということです。X-Menのウルヴァリンではないのですから。こういう患者は日常生活が脊椎を繰り返し傷めているということを理解していません。人が歳をとるということを理解していません。困ったものです。
私はそうしたネガティブかつわがままで道理を知らない患者ばかりを好んで診察してきました。その理由は自分の修行になるからです。理解力のある患者は医師にとって楽ですが、それでは診療技術向上の修行にはなりません。理解力のない患者から重要な情報を訊きだしてこそ医者の本領です。
ネガティブな患者から情報を引き出す場合は質問のしかたが重要です。まずはブロックした直後に痛みがどの程度だったかを訊き、次に痛みが元に戻った日を訊き、今の痛みが来院時と比べで何割なのかを訊き、それらを元に疼痛折れ線グラフを作成し、そのグラフを積分して面積を考え、治療効果をチェックします(「痛み治療の実践」をご参考下さい)。治療効果を測るには、今の痛みよりも痛みの折れ線グラフの面積で考えるという癖をつけなければなりません。
時間差を研究する
整形外科の教科書には脊柱管狭窄症のしびれ症状にブロック治療などがほとんど効かないことが掲載されています。しかし「効かない」と判定した状況は「どの頻度で、どの回数、どの期間」なのかは掲載されていません。私は直腸膀胱障害、強い冷感、下腿全体のしびれ、両下肢疼痛のある患者について1年間ほぼ毎週硬膜外ブロックを継続的に行うことによってほぼ全ての症状を完全に軽快させるに至った症例を多く経験しています。つまり、継続することでやっと完治に近づけるという場合もあるということです。
この患者に1か月間しかブロックを行わなかった場合、「ブロックはしびれや冷感には無効」と判定せざるを得なかったでしょう。1年間継続したからこそ「ブロックはしびれや冷感にも有効」と判断しえたのです。この治療と効果の時間差を知るには、まず根気よく治療した実績を重ねる必要があります。どの症状にどの程度の治療時間差があるのかを知ることは、患者と医師の双方の治療意欲にもかかわりますから、極めて重要であることがわかるでしょう。
治療効果よりも治療ストレス
治療効果を考える前に、患者にとっては治療に用いるブロック注射の痛さは効果判定のマイナス要因になっているということを知らなければなりません。つまり、症状はとれていても注射の痛みが残っているなら、または注射自体が非常に痛いものなら治療に前向きではなくなります。前向きではないと患者は治療を中止したがり、来院しなくなり、効果判定の話を訊きだすことも難しくなります。こんな状態では客観的な治療データをとれません。また、長期治療データをとるためには、ブロック注射が苦痛でないようにしてあげなければなりません。苦痛ならば途中で患者が辞退するでしょう。ならば、ブロック治療の長期データは「痛くないブロック」ができる技術を持つ必要があります。一般的にはそれができない→長期治療データは存在しない→治らない、と判定されます。
私は何度も言うように、他の医者が治せなかった症状を専門に治療してきました。それができるのは「痛くないブロック」ができるからなのです。痛くないからこそ患者が長期に治療に参加してくれるのです。痛くないブロックの方法は別記します。
近接効果の法則、その実例
<例1>例えば腹痛の患者がいます。この患者の治療として鎮痛剤、腸蠕動抑制(抗コリン薬)、浣腸(排便を促す)などの方法があります。腹痛の本当の原因が便秘であった場合でも、どの治療でも腹痛は一時的に軽減します。原因除去にもっとも近いのは浣腸であり、鎮痛薬は原因から遠く、抗コリン薬は原因に対しさらに遠く逆行しており便秘を悪化させる治療です。原因に対してより適確であればあるほど治療効果は高くなります。効果が高いというのは痛みの抑制効果と、再発率の低さ、効果時間の長さなどのことを言います。
<例2>手首の尺側(小指側)が痛いと訴える患者がいます。痛みの原因として考えられるのは手関節炎、三角線維軟骨損傷、腱鞘炎、神経根炎(C8)などが考えられ、またこれらの疾患の複合の可能性もあります。誓って言いますが、二つ以上の疾患の複合であった場合、その原因を的確に診断するためのツールはこの世に存在しません。徒手テストもMRIも参考程度にしかなりません。
例えばこの患者の第8頚神経根に炎症がある場合、軸索反射、根反射などにより手首の尺側に炎症が起こることがあり、またアロディニアなどが存在するとかすかな腱鞘炎の痛みが何倍にも増幅されることもあります。よって痛みの症状からは何が主原因なのかがわかりません。
近接治療効果の法則は主原因に治療した場合にもっとも大きな治療効果が発揮されるという法則です。もしも第8頚神経根炎が主原因であった場合、腱鞘内注射や関節内注射では治療効果が少なく、神経根ブロックを行った場合には絶大な治療効果を発揮し、治癒へ向かいます。要するに、原因箇所に近いところに行う治療ほど効果が高いものになるという法則です。
例えばこの患者に、まず腱鞘内注射を行うと「2時間ほど痛みがとれた」手関節内注射を行うと「痛みはほとんどとれない」神経根ブロックを行うと「痛みがほぼ消失し、1週間たった今でも痛みがない」となった場合、この患者の手首の痛みの原因は神経根炎であろうと推測するという診断学です。
近接治療効果の法則を基礎医学者は理解できない
私は痛みの原因を研究している際にS医大の神経生理学の助教授に疼痛の仕組みについて問い合わせたことがありました。するとその先生は「痛みはトリガーでも神経根ブロックでも、先生がハンサムでもとれますよ」と返答されたことがありました。つまり、治療で原因箇所などわかるはずもないと言いたいようでした。もちろん、痛い場所にブロックしても、神経根にブロックしても、脳を麻痺させても痛みはとれます。しかし、原因に近接しているところに治療しなければ効果は持続しないことを基礎医学者は理解できないようなのです。疼痛の治療経験(臨床経験)がないからです。
本当の意味で原因箇所に治療をしなければ完治はしません。私は近接治療効果の法則から、今まで原因不明とされてきたもののいくつかの病態を解明しました。完治させることから導き出すのです。以下にその例をいくつか挙げます
成長痛を神経根ブロックで治す
右の足関節外側を少し捻っただけで激しく痛がる12歳の女児を診断。当初は関節捻挫か関節炎と考えていましたが、2週後も激しい痛みが継続し、ただの捻挫としては不可解でした。そこで、親の了承を得て第五腰神経に神経根ブロックを行いました。その瞬間から痛みが皆無となりその後も全く痛みがなく完治しました。この事例より関節痛と思われた原因が腰神経根炎だったと判明(推定)しました。テニス肘の原因は神経根症
右肘外側の痛みを訴える32歳女性。テニス肘と診断し肘の外側に注射をしましたがその効果は2日しかもちません。そこで第7頚神経に神経根ブロックを行ったところその後から痛みは消失し完治しました。1か月後に再燃しましたが、近接治療効果の法則より、この患者のメインの疾患は頚神経根症であると診断しました。交通事故後の動眼神経不全麻痺
交通事故でむち打ち損傷後、眼が重くだるく開けていられない、視力調節もできないという42歳の男性がいました。この患者に頸部交換神経節ブロックを行ったところ、瞬時に眼や眼瞼の動きが改善されました。治療効果は最初は3日間しか得られませんでしたが、数回繰り返して完治に導きました。よって眼症状の原因は脳幹(動眼神経)が頸髄に引っ張られて炎症を起こし、血行不良が起こっていると診断(推定)しました。その他の脳神経症状の治療
三叉神経痛、めまい、耳鳴り、不眠症などを頸部交換神経節ブロックでほぼ完治の状態に導くということを現在、症例実績を積み重ねています。これらは脊髄と脊椎の形態学的な長さの不適合による脳幹の牽引、牽引による血行不良が根本原因だと考え、脳幹の血行改善のため頸部交換神経節ブロックを行い、姿勢や枕の調整などを指導し、良好な治療成績を重ねています。近接治療効果の法則の応用
近接治療効果の法則を用いて治療、診断を本格的に行うためには原因として挙げられる疾患すべてに対する、すべての箇所に治療を開始する必要があります。すべての箇所に治療するためには訓練された技術が必要です。今後、私はその技術を若い医師たちに伝えていこうと努力します。ただし、近接治療効果を具現化させるためには、強靭な自分否定の精神力が必要になります。その理由を挙げます。効果判定をする際に自分に甘くなる
原因箇所よりも遠いところ(見当違いな治療)を治療しても、痛いところにブロック注射をすれば痛みがとれます。つまりトリガーポイント注射をすればほとんどの痛みは軽減します。これを治療効果ありと判断してしまうのが普通の医者です。しかし、己に厳しく判断すると「効果あり」ではありません。数日しか効かないのであれば「治療になっていないから効果なし」だと判断する厳しさが必要です。この厳しさがないと「他の場所にも治療をしてみよう」というモチベーションが出ませんので、結局真の原因箇所に治療をしないまま、トリガーポイント注射を続けることになります。
また、その逆もあります。一度の注射では全く効果がない場合があります。普通なら効果がないからやめようとあきらめます。ところが何回も治療を重ねることで治るかもしれないという「あきらめない心」も必要になります。また、注射ミスかもしれないから何度かトライしてみようと粘る根性も必要です。その粘りと根性を示していると、そのうち、長期治療で治癒していく感覚をみにつけることができるようになります。長いトンネルの先の明かりが見えるからこそトンネルを突き進む勇気がわきます。それは医者も患者も同じです。
つまり近接治療効果の法則を」試していこうとするためには、自分の治療効果を厳しい目で判断し、しらみつぶしに原因箇所と思われる場所に治療をトライしていくための強靭な精神力、そして粘りと根性が必要になります。
真の原因箇所は体の表面にはないことが多く、原因箇所から離れているものですので、治療をトライすることは自ら困難に飛び込んでいく作業となります。リスクも多くだれもやりたがらない領域です。そこに飛び込まない限り近接箇所に治療することはできません。
困難である理由は、「痛い場所以外の場所」にブロック注射をすることは「患者に理解してもらえない」ところに最大の要因があります。患者の意向に反して治療をする場合、その治療が的を射ていなかった場合、注射の痛みが強かった場合、ミス注射の場合、合併症を作ってしまった場合に訴訟を起こされることもあるということです。これらのリスクを100%に近い確率で回避できるまでにブロック技術が向上してはじめて近接効果の法則を診断に応用できるようになります。
前途多難ですが、これらができるようになると必ず新たな診断学が各自に芽生えます。それは医学書には掲載されていない未発見、未発表の新知見の領域です。このHPに掲載されている内容は、そうした新知見の集大成です。
質問があります。「枝葉ではなく根を断ち切る」のところで原因個所が痛む所以外にある場合、トリガーポイントなど痛むところへの注射の効果は一時的に過ぎないとの記載があります。お伺いしたいのは、原因個所でないのなら一時的な効果すら無さそうに思われますが、そうではないのでしょうか?
すいません、あまりに面倒くさい質問なので説明する気分が下がります。痛みは、一つのスイッチを押せば脳が痛みを感じるというほど単純ではありません。たとえば痛みを伝える1本の神経が、その途中で損傷したとします。痛みを伝える神経が損傷した場合、痛みが全くなくなると思いますか?という質問に、まずあなたが悩んで考えてみてください。すばらしい回答ができたあかつきには、もう少しおつきあいしてさしあげます。
ご返信有難うございました。素人の発想にすぎませんが、先生の出された問題では、損傷のない神経が残っているとそのルートで痛みの信号が伝わると思われます。
私の疑問を具体的に申しますと、「足底先端部の灼熱痛等の原因がもし脊柱管狭窄症の再発によるものならば、足底先端部へのブロック注射は無効であるはず」と言えるかどうかでした。結果は狭い範囲が無感覚になりましたが、灼熱痛の変化はなかったようでした。
しびれ、痛み、灼熱感などを伝える神経細胞が損傷した場合、無痛、苦痛なし、になるのであればよいのですが、それでは神経細胞という重要なものが損傷しても警告を発することができませんよね。人間の体はそれほどおばかさんではないということです。人間の体にはあらゆる感覚、運動の命令などの電気信号が飛び交っており、それらの電気信号を苦痛や痛みのエリア(脳)に伝えることで「痛みや苦痛を新たに作り出すことができる」と考えます。電気信号はどこからの電気信号でも基本的には利用できます。とはいうものの、その、「元となる電気信号」をゼロにしてしまえば、痛みや苦痛は止まります。トリガーポイント注射により、「元となる電気信号」がうまく遮断できれば、苦痛が消失する場合があります。しかしそれは元を絶っている、治療しているわけではありません。
ただし、トリガーポイントへの刺激が、偶然にもツボ刺激のようになり、中枢の原因箇所の血行を促進するなどの高価がある場合があり、それで治っていく例もあると思われます。トリガー注射が効果的に働くこともあると考えます。