ステロイドホルモン
ホルモン作用を持つステロイドはステロイドホルモンと呼ばれる。ステロイドホルモンは大部分が副腎皮質から分泌されるが、一部の性ホルモンは、精巣や卵巣から分泌される。生体内では性器の分化、性的な特徴の発現に関わる性ホルモン、血糖値を保つ糖質コルチコイド、ナトリウムをはじめとした塩類の再吸収を制御し、血圧を維持する鉱質コルチコイドなどがある。 そのため、ステロイドホルモンを人体に投与すると「性ホルモンのバランスを崩す、血糖値を上げる、血圧を上げる」などの作用が程度の差に違いはあっても誰にでも必ず現れる。これは副作用というよりも作用というべきものである。ステロイドホルモンの作用
ステロイドホルモンは性腺(精巣や卵巣)に影響を及ぼす作用を利用して女性の生理の調整、更年期症状の改善、エストロゲン不足の為に起こる骨粗鬆症の改善、性ホルモンによって影響される乳癌や前立腺癌の治療、男性ホルモンをヒントに筋肉増強などに用いられる。また、ステロイドの強力な抗炎症作用を利用して脊髄損傷治療、突発性難聴治療、など難治で手のつけられない疾患への最終手段(最後の切り札)として用いられたり、関節や靭帯の痛みと炎症を抑えるために用いられたり、抗免疫作用を利用して、薬剤アレルギーのショック、喘息などでの切り札として用いられたり、膠原病、クローン病、リウマチ性疾患、腎炎などの自己免疫性疾患の治療のために用いられる。
アナフィラキシーが起こった時はステロイドホルモンの投与がなければ死に至る。アトピー性皮膚炎、様々な膠原病には実質ステロイドホルモン以外の有効な薬がほとんどないなどの理由でステロイドホルモンはこれらの分野の治療では絶対に欠かせない。
ステロイドホルモンは副作用が強くても使わざるを得ない
これだけ作用が強くキレのある薬剤の為、副作用も限りなく多い。使い方によっては副作用の方が目立ってしまい、結果的に人体に害となることも少なくないため、ステロイドは「諸刃の剣」とも呼ばれる。しかしながら、この強力な作用は人の命を救ったり、スポーツ選手の選手生命を維持したり、手術しなければ治らない患者を治せたり(手術を回避できたり)、生理痛の激痛で生きるのもつらいというような女性たちを救ったりできるため、諸刃の剣であったとしても使わざるを得ない場面にしばしば直面する。この時、ステロイド使用に賛否両論が生まれ世界の医師たちがステロイド使用で論争を繰り返している。そしてこの論争が収まることは恐らく未来にもない。ステロイドホルモンは言わば人生を救うための「他にはない唯一」の薬剤であるため、副作用をどうとらえるか?が各自の医師の良心にゆだねられることになる。よってトラブルも世界中でおこっており、1万回の使用でたった1回、大きな副作用が出て取り返しがつかなくなったりすると、それを経験した医師や患者はステロイド使用に猛反発するという事態が起こる。この両者の論争が今でも世界各国で火花を散らせている。
致命的場面を回避する目的でのステロイド使用ではトラブルは起こらない
脊髄損傷で脊髄の浮腫を直ちにとらなければ下半身不随で一生寝たきりになる、アナフィラキシーショックで呼吸ができないなどの致命的な場面ではステロイドホルモンの使用は問題にならない。使わなければ絶体絶命なので副作用は全て無視してよい。突発性難聴など、今使わなければ一生難聴として後遺症が残るというような体の一部の機能マヒを防止するために使用される場合も問題にはならない。生きていくのもつらいような痛みを取り除くための使用(子宮内膜症、リウマチ関連など)も問題にならない。ステロイド以外に有効な治療法がない疾患(自己免疫性疾患、各種アレルギー疾患)での使用も問題にはならない。治療法がステロイド以外にない場合、患者は副作用でたいへんなことが起こったとしても医師を訴えない。よってトラブルに発展することはない。
問題は、ステロイドを使用する以外にも解決方法がある疾患でステロイドを用いた場合に、副作用の責任が医師にかかってくること。唯一ここだけが問題になっていることに気づく必要がある。ステロイドの副作用は昔から論争の火種であるが、副作用自体が論争にはなっていない。使わざるを得ない状況で使わなければ、逆に医師が「ステロイドを使わなかったこと」で訴えられてしまうのだから。使わなければ死を回避できないという時に、ステロイド使用をためらう医師などいない。
医師間のステロイド使用の激しい火花
患者がネットなどから聞きかじった貧弱なステロイドの知識で使用を嫌がっているというのはよくある話である。が、実際に使用を毛嫌いしているのは患者よりもはるかに医師側だということを世間一般の人は知らないようだ。ステロイドを嫌う医師は人生を賭けて、データを多少曲解してでもステロイド使用を禁止していこうとする。世間では医師が湯水のごとくステロイドを使用し、患者が被害を受ける…と思っているらしいがそれは一昔前のこと。今は違う。ステロイドは積極的に使用しようとする医師のほうが圧倒的に少ない。この事実を知っている一般人はほとんどいないと思われる。なぜそうなのか?それは前に述べた。ステロイド使用は「使わなければならない疾患」で使っても全くトラブルにならないが、他に治療法がある場合に使用すると問題になるからだ。
つまり、他に治療法があるのにステロイドを使うということは、副作用の責任を医師が負うことを意味しているわけで、そんな「患者の為を思って責任を負う」ようなことを医師が自らしないのが普通である。使用することは自分で自分の首を絞めるようなことである。よって自分の経歴に汚点をつけたくない医師(教授になるなど野心のある医師)がステロイドを使用するはずがなく、権威ある医師ほどステロイド使用を避けるのは普通である。
しかも、ステロイドはとてもキレのある薬剤である。ステロイドを使用すれば手術しないで治癒してしまう患者は大勢いる。整形外科手術患者の多くは、バネ指・変形性関節症・肩腱板損傷・脊柱管狭窄症をはじめステロイドを使用すれば手術を回避できることを私は証明してきた→これはアメリカでも議論の的になっているが、ステロイド否定派医師は信じようとしないどころか、ステロイド使用で症状が改善されると言う結果は出ていないという論文発表を次々と行い、ステロイド使用医師をつぶそうとする圧力が存在する。
ステロイドを使用した医師の方が、「手術の達人」よりも実際には医師として優秀であることもあり(外科医は認めないが患者がそう認める)、ステロイドは権威ある外科医たちのメンツを実際に傷つけてしまう。手術で失敗しても外科医は責められないが、ステロイドで何か事故を起こせば、その件数が100万件に1件であっても猛烈に責められるという権威からの圧力が存在する。この圧力に逆らってステロイドを使用することは医師にとってかなり精神的ストレスになる。しかし、これだけ精神的な圧力をかけられ、ステロイド使用が世界中の医学界全体で否定され、さらにステロイドを使用すると徹底的に保険審査で厳重警告されるというのに、使用する医師が減らないことを疑問に思わなければ真実は見えてこない。
しかし、ステロイドを使う整形外科医は冗談にもステロイドの副作用について勉強しているとは言えないことが多い。また、事実、勉強不足の医師ほどステロイドを気軽に大量に使ってしまう傾向がある。こうした無謀な医師の存在が、ステロイド使用を熱心に研究している一部の優秀な医師の脚を引っ張っている。これがステロイド使用派がステロイド否定派に論文闘争で完敗する理由となっている。世界各国でステロイド肯定派と否定派が議論しているが、肯定派が勝つことはかつて一度もない。医学が「患者に本当に利益があるか」で決まるのではなく、勝ち負けで決まるところが興味深い。医師のメンツは命よりも重い。
ステロイドを使えば手術は回避できる
この事実を知るのは学会の圧力から解放され、比較的自由に診療が可能となった一部の開業医のみである。学会を牛耳っている大学というシステムに取り込まれている医師は、ステロイドの効果を示す研究をさせてもらえることはない。そして、整形外科ほどステロイド治療が有効な科はない。バネ指の手術、母指狭窄性腱鞘炎手術、手根管症候群手術、変形性膝関節症手術、変形性股関節症手術、腰椎椎間板ヘルニア手術、脊柱管狭窄症手術、TFCC手術…など外傷以外はほとんど手術しなくとも全治させることができるのがステロイド治療である。特にスポーツ選手の治療には効果が絶大である。それほど威力があるにもかかわらず、一般的な整形外科医がステロイドを使用せず、病態を悪化させ「手術が必要だ」と患者に告げ、私のところに逃げてきた患者のほぼ全例を私はステロイド注射を用いて全治としている。私はすべての治療患者のデータをとっているわけではないが、「特殊治療例」を参考にしていただければ、どのような奇蹟的治療を可能にしているかが多少はわかる。
私はステロイドに無知ではないし、副作用についても自らデータをとって研究しながら、安全性を確保しつつ使用している医師である。ここで私は敢えて言うが、ケナコルトなどの懸濁ステロイドを一度も使うことなく、患者に手術を進めた場合、訴訟を起こされても仕方がない。それは患者が手術を回避できるかもしれない権利を医師が奪っているからである。それほど整形外科医は患者に容易に手術を勧め過ぎている。このことは以下に示すが米国でも議論になっている。
私は敢えて言うがステロイド使用賛同者ではない。軽はずみにステロイドの知識が乏しい医師がカジュアルにステロイドを使ってはいけないと本当に思っている。
ちなみに私の外来は「他の医師が手術しなければ治りません」と言われた患者が数多く来院する。私は地域で「治せない疾患を治せる」という評判が立っており、普通の整形外科外来よりも「治りにくい患者」が集まってくる。その中で手術をせずに治療していることに留意してほしい。中等症から重症患者ばかりが私の元へ集まってくるため、治療成績は一般の医師たちよりも低くなりやすい。そのハンディを背負ってもきちんと、ほとんどを全治にして差し上げている。
さて、ステロイドは手術の必要性を奪い去るため、ステロイドを使用する医師は権威ある教授先生方や学会にたいへん嫌われることになる。嫌われれば大学では生きていけないので、大学病院に在籍中はケナコルトなどの強力かつ持続性の高いステロイドを使用する整形外科医はほとんどいない(一部のスポーツドクターを除く)。スポーツドクターは大学在学中も密かにステロイドを使用する。理由は「治せない」ではスポーツドクターの役目が御免となるからである。
教授たちの権限が及ばない地方で開業した医師は、ようやくステロイドの魅力に気づく。開業すれば整形外科医は手術をしなくなる。そこではじめて手術をしないで治療する方法を考え始め、ステロイドに手を出し始める。手を出すとステロイド使用で本当に手術を回避できるというその強力な効果を目の当たりにする。だが、これまでステロイドについて勉強していないし、ステロイドのガイドライン的論文が存在しないので、その使用量を誤る。
中央では教授陣が派閥を効かせ、ステロイドを使用することを激しく禁止する一方、地方の開業医たちは教授たちの意見を無視して手術回避(ステロイド使用)へ向かう。しかし、適切な使用量を知らないために事故を引き起こす。 さらにステロイドを使うとこんなに酷い副作用が起こる!という系の論文も、当然ながら教授たちは大推薦してお墨付きを与える。ステロイドは怖いという論文は世間にたやすく流通し、一般人にもステロイド使用拒否が広がる。
例えば「ステロイドの関節内注射を不安定な関節にはしてはいけない」という禁止事項を彼らは設定している。また、ケナコルトなどは硬膜外に使用することの適応を認めていない、など、すでにステロイド使用でわずかでも問題が起これば、それは使用者の責任問題になるような社会情勢が作られている。この「禁止事項」が存在するため、万一ステロイド使用後に患者の症状が悪化した場合、それがステロイドのせいではないことが真実であっても、医師は訴えられて敗訴し、人生を棒に振る可能性がある。つまり、ステロイド戦争はすでに医師の間で開始されていて、その勝負は権威ある教授陣たちが圧倒的優勢で勝っている。何度も言うがステロイドは本当に多くの手術を無用にさせる。これは外科医のメンツをつぶす。次にアメリカで起こっている整形外科学会内でのステロイド戦争を紹介しよう。
アメリカで起こっているステロイド論争(整形外科編)
製薬会社エーザイで出しているThe Back Letter(菊地臣一監修)2012.Oct.には「硬膜外ステロイド注射は腰部脊柱管狭窄症の回復を妨げる~大規模調査の結果」という記事が掲載された。ここでは例えば米国疼痛学会2009で「硬膜外ステロイド注射が脊柱管狭窄の治療に有効であるという信頼できるエビデンスを見だすことができず、エビデンスの総合的な質を「Poor」と位置づけたとある。また、また北米脊椎学会の総会で「手術を受けた患者と保存療法を受けた患者の両者で、硬膜外ステロイド注射群では4年後の追跡調査時に改善が劣っていた」と発表した。
そして監修者の菊地臣一も「脊柱管狭窄の治療において硬膜外ステロイド注射が何らかの有効性を示すようには思われない」と結論している。菊地臣一は福島県立医大の学長でもあり日本の脊椎学会の最高権威者の一人である。その彼がステロイド無効と宣言すれば、それに逆らってステロイドを使用する愚かな整形外科医がこの日本にいるだろうか? 不思議なことにいくらでもいる。硬膜外ブロックにケナコルトは使用を認められていないが、使用している医師も決して少なくないという実態が密かにある。これを不思議だと思わなければおもしろくない。
絶対権威者がステロイド使用を禁止するように宣言しているのに、なぜこんなにもその命令に逆らう整形外科医が全国、いや世界各地に存在するのか?そのことのほうが不思議なのである。もしも、効果がないとすれば、ステロイドを使用することは医師にとって莫大な負の財産を背負うことに等しい。なぜ負の財産を背負い込む医師が世界各地に散在するのだろう?本当に効果なしなのだろうか?
権威者は厚生労働省をも動かす。つまりステロイドの使用は国家権力で禁止されているも同然。それを無視して使用すれば、訴訟では敗訴→莫大な借金人生、メリットはなし、副作用だけが出る、場合によって保険医の資格剥奪…とかなり不利である。にもかかわらず開業医たちはステロイドを使用する。開業医は頭がいかれているのだろうか?そのヒントは次にある。
別の学会出席者は学会の席でこう反論している。「私はステロイド注射をやめようとは思わない、なぜならそれは患者に回復の時間を与えて手術を回避させるという実行可能な方法であるからだ。あなたの研究結果は私の臨床経験と矛盾する。一定数の患者では硬膜外注射によって奇蹟的なアウトカムが得られる。そのため私はこれを多用している。一部の地域でステロイド注射が過剰使用されている。しかし、患者から手術回避のチャンスを奪うことはできるだろうか」と述べた。
この反論に対し演者は「我々のデータでは手術を回避できるという結果は得られていない。」とさらに反論した。ちなみに私のデータではステロイド使用で真に手術を回避出来ていることが示されている。どの程度奇蹟的な効果が得られるかは、私の論文をご覧になればわかる(「特殊治療症例」を参)。
開業医たちがなぜステロイド使用をやめないのか?その答えは至って簡単である。患者が望むからだ。患者がステロイド使用で日常生活を楽に遅れて幸せな人生を過ごせるからだ。手術することなしで。そして一度でもステロイドを注射してもらった患者は、ステロイドを使用してくれないことに怒りさえ示す。だから、医師として大きな負債を背負うことになってもステロイドを密かに使用するのである。
それ以外に開業医が権威者たちの論文を無視して、自分の立場を悪くしてまでステロイドを使用する理由はない。開業医たちは権威者達の論文がたとえどんな結果を宣言しようともそれを信じるはずがない。理由は開業医たちの臨床経験では、明らかにステロイド使用の方が患者の改善率が高いからである。だがそんな論文を発表しても握りつぶされることを知っているので発表しない。上記の米国での論争がその証拠である。ステロイド使用者は必ず負ける。
この先も論争は世界各地で続く。科学のデータは条件を綿密にするか適当にするかで判定結果が真逆に出ることは、真の科学者なら常識として知っている。統計データはどんなに無作為に行ってみたつもりでも、必ず何かが作為的になってしまい、完全なる無作為抽出データを作成することは不可能である。だから本来は統計学で真の科学的証拠を追究することはできない。だからデータは自分の意を反映するようにいくらでも作りかえることができる。でもそれっを言ってしまうと身も蓋もない話である。
権威者の意見は絶対的であり、権威者が適当な条件でデータを曲解してもそれは世間に通り、開業医が真実を訴えてもそれは通らない。なぜなら開業医は権威者たちと肩を並べて研究ができないからだ。勝負しても赤ん坊と大人のけんかであり、開業医にこの論争の勝ち目がない。開業医には研究する時間的余裕もない。彼らは論文作成よりもお金儲けに熱心だからである。
一応、私もステロイドの使用による治療成績の差を研究している一人である。ステロイド使用が有効であることを示した数少ないエビデンスの一つを示すので参考にされたい。それから現在はステロイドの長期関節内使用でも、懸念されているステロイド関節症が起こらないことを証明する論文を制作中である。ただ、これはステロイド使用を推奨する論文ではない。ステロイドは怖い薬剤であることは一切否定しない。さじ加減が非常に難しく、勉強不足な医師には絶対に使用してほしくない。私はステロイド使用患者には徹底的に採血調査して副作用の出現の有無を厳重に監視しながら使用している。そういう面倒なことを進んでできない医師には使用を認めるつもりはない。その見解は教授たちと同じである。
ステロイド使用は医師の裁量で決まる
ステロイドの使用は「他に治療の選択肢があるときに問題となる」と何度も述べた。強力な治療効果があるが副作用も強いからである。治療に選択肢がある場合、副作用の責任は医師が負わざるをえない。その責任を背負ってでも患者にステロイドを注射するか?が迷うところである。副作用を患者に説明して、患者にステロイド使用の選択権を預ければ副作用訴訟は起こらないだろう。しかしながら実際のところ医学知識の乏しい患者に副作用の起こる確率と、治療効果をてんびんにかけるという知恵はない。どんなに高学歴の患者でもそんな知恵はない。知恵のない者に選択させるのは「いいまわし」でどちらにでもできることで、結局医師が選択しているに等しい。
実際にステロイドの副作用をきちんと患者に誤解なく理解してもらうには30分間でも足りないくらいに難しい。神経質な患者やステロイドを誤解している患者はステロイドを使用しようとする医師のプライドを折ることに執念を燃やす者までいる。このような患者相手に、普通の医者なら誤解させないことはまず無理に近い。
さらに、そこまでステロイドを嫌がる患者を説得してまで、ステロイドを使用する理由は何なのか?を説明するのもたいへんだ。さらに、30分間かけて説明した上で、結局医師をののしって帰る患者もいる。だから、結局どう転んでも最終的に使用の選択をしているのはステロイド使用の臨床経験を積んだ医師自身である。だからこそ使用経験を積んでいない医師にはステロイドを使用してほしくないのである。
知識の浅い医師がステロイドの不適切な使い方をして被害者を作り、おかげで患者はステロイドにネガティブな先入観を持ち、本当に使用しなければならない場面でボイコットされてしまうのだ。それは熱意ある医師にとって非常に迷惑である。なにせ権威者たちがステロイドの誤解をあおるような論文発表ばかりしている。その中でステロイドを使用する医師はどれほど困難に立ち向かわなければならないか想像してほしい。よってステロイドを整形外科領域で使用するには、ステロイドについての猛勉強と臨床経験、さらにそれを使う決断力、責任を持ってからにしてほしいと節に願う。若い医師にそういう責任を負うことは無理である。だから使ってはいけないのである。
なぜ四面楚歌のステロイドを使う必要があるのか?
さて、話はそれてしまったが、ステロイドを使うには医師に大きな重圧がかかることは理解していただいたと思う。その重圧を押してまでステロイドを使用する理由は何であろう。それは患者の痛みがわかるからである。サッカーに命をかけて頑張っている少年がいたとする。少年はオスグッド病に悩み整形外科を訪れる。普通なら1.5カ月運動禁止が治療方法である。だが、ステロイド(ケナコルト)を局所に注射すると腫れと炎症がすみやかに消退し運動しても平気になる。一時しのぎではなくすみやかに全治に導くことが可能である(オスグッドでさえ全治を早めることができるという奇蹟)。なぜ奇蹟が起こるかの理由は「日常損傷病学」に示してある。長文なので読むのは大変だが…
このサッカー少年から1.5カ月間サッカーを奪う苦痛とステロイドの副作用発現の苦痛をてんびんにかける。ちなみに成長期の少年にステロイドを投与することは性ホルモンに影響し、成長にも多少の悪影響を及ぼす。よって少年少女にステロイドを投与することは医師にとって躊躇することだ。普通の医師なら1.5カ月間サッカー禁止と宣告する。だが、1.5カ月間休めば大会にも出られなくなり、レギュラーの座から追い出される。それが「この少年にとっては人生の苦痛である」というのであれば、ステロイド使用に踏み切ることも考えなければならない。プロゴルファーが「明日の大会で言い成績を上げたい」と言っているなら、ゴルフ肘の部分にステロイドを注射してあげることだろう。それが患者の痛みがわかるということである。
電動車いすの高齢者が「肩が痛くて車イスのレバーが動かせない」と言ってきた。どこの整形外科へ言っても「治らない」と言われたという患者。診るとこの患者の肩は変形と不安定性があり腫れあがっていた。「不安定性のある関節には禁忌」とされるステロイドを私はためらわず注射し、たった3回の注射で「医師たちが見捨てた肩」を「腫れのない、動かしても痛くない肩」へと回復させた。
つまり、患者の痛みがわかる医者は患者の人生を総合的に見てしまい、ステロイドの使用による副作用は一時的なので目をつぶろうと判断する場合もあるということだ。場合によっては「禁忌」と能書きに書かれていることをしてやらないといけない。「禁忌」事項を実行に移すことは患者に起こる不具合の全責任を負う覚悟でなければできない。
一事が万事、患者の人生、患者の幸福を願う医師ほどステロイドを使う機会が多くなる。それは副作用と患者の痛みをてんびんにかけるからだ。痛みがわかる医師ほど患者の痛みを自分のことのように感じ取るため、四面楚歌になってもステロイドを使おうとする傾向がある。大学病院在籍中の若い医師には、そんな権威者達の論文に逆らうことができるはずもない。
人の痛みのわかる医師たちは「患者の苦痛をわが身のように感じる」ためステロイド使用のハードルが低くなる。これは逆も真なり。人の痛みのわからぬ出世欲にまみれた教授たちはステロイド使用のハードルを高くする。しかし笑えることは、ステロイド注射よりもさらにハイリスクである外科手術のハードルがあまりにも低いということ。人の体にメスを入れることの苦痛を彼らは何とも思っていないことである(一部の有能な外科医を除く)。
ステロイド無知も怖い
私はステロイドを注射する時、その使用量が体に影響するかしないか?厳重にチェックし、他の薬との相互作用も考えて調節する。使うステロイドの種類により強さの違いもあり、薬の半減期や効果時間も考慮し、プレドニン換算で1日に何mgを何日間の使用と同等になるのかまで考えて使用している。おそらく整形外科医でそこまで考えながら厳密にステロイドを使用している医師はいない。ステロイドを毛嫌いする医師はなおさらステロイドの知識がないと思われる。知識がないものだから多くの整形外科医はサバを読むようなさじ加減で適当にステロイドを投薬する。私が働いている整形外科医院の院長はケナコルト40mgを若い女性のバネ指の治療に2週連続で何も考えずに注射していた。たまたまその女性が私の外来に来たのでわかったことだが、このステロイド投与のためか、生理不順・不正性器出血が起こり、胃部不快、嘔吐感を訴え、口内炎もできていた。私はそれらの全てがステロイドによる副作用である可能性を告げた。
私は通常、ケナコルトを使用する場合、1カ月にトータルで20mg(最近では10mg)までしか使用しないようにしている。上で説明した院長の場合、1カ月に120mg使用しそうな勢いであった。これが無知というものだ。無知が故に使用限度も副作用も知らないまま大量のステロイドを患者に使ってしまう。こうした医師がいるおかげで私のように厳重にステロイド管理をしながら強力な治療をする医師が攻撃されることになる。本当にいい迷惑である。
少し東京郊外の整形外科に1日だけアルバイト診療しに行ったときも同じような状況だった。カルテを診ると両膝にケナコルトを40mgずつ注射していた。これでトータル80mgである。それを2週に1回、つまり1カ月で160mgの投与である(私は1カ月10~20mgを限界と定めているのにその8~16倍を使用していた)。
ケナコルトがよく効くことは知っているが、こんな大量投与を何年も継続すると様々な副作用が出てきてしまう。私はそのあまりにもずさんな使用状況にぞっとした。こんな不謹慎な医師たちが無造作にステロイドを使用するからこそ「不安定関節には禁忌」など措置がとられるようになるのである。不謹慎な医師が全国に散在していることを考えると、教授たちが「ステロイドを使うな」と叫んでいる理由もわかる。この「無知」はやばいが、使用ガイドラインを打ち出すこともできないので困っている。
医師のステロイドてんびん
難治性の疾患にステロイドを使用する時、医師は安全性を無視する。たとえば私の外来にやってきた突発性難聴の患者は、その症状が最初に出現した時、近くの耳鼻科に入院し、ソルコーテフ2000mg×3日=6000mgの投与を受けた。桁違いのステロイド大量投与であるが副作用については何も説明されていない。ステロイドを使用されていたことは退院後のレシートを見て知ったことになる。退院後もプレドニン15mg/日を2週間投薬されていた。彼らの使用方法にデリカシーは全く感じられない。難治性のものを治療する際に、医師は安全性を全く気にもとめていないことが判明する。私は突発性難聴を上頚神経節ブロックを用いて治療する。ステロイドは使用しない。ここでイイタイコトは、ステロイドの副作用について無知である医師は大量使用に良心が痛まないということである。つまり副作用を過小評価してしまう。無知がゆえである。
前にも述べたが、ステロイド使用には医師の責任がつきまとう。それにもまして患者を救いたいという気持ちが強い場合に医師はステロイド使用に踏み切る。当然ながら副作用の知識は、使用をふみとどませる方向にてんびんを傾ける。ならば無知はステロイド使用を安易にさせてしまう。例えば、患者の痛みがわかる医師が、ステロイドの知識が乏しい場合、ステロイドの湯水のごとく垂れ流しが起こってしまう。私はそれを非常に心配する。
ステロイド使用でヒーローを気取る医師たち
ステロイドは世界中で常にネガティブに言われる。若い医師たちは使用を躊躇する。しかしながら強力な効果が発揮されることはまぎれもない事実であり、その使用方法、用量、使用回数、使用期間などを工夫すれば治らない病気も治せる可能性がある。開業医は自分の意志で比較的自由に薬剤を使用できるので「他の病院で治らない患者を治して評判を上げるために」ステロイド使用者が増える。評判を上げなければ地元で商売ができなくなるからだ。一方、大病院ではステロイドの使用が自由ではない。勝手なマネをされて訴訟問題になっては困るので大きな組織では医師の行動は制約される。よってステロイドのような得体のしれない薬は大きな組織にいるうちは大胆に使うことは許されない。この差は各地にヒーローを生む。
「あそこの先生は、どこに行っても治らなかった膝の痛みを治してくれたのよ」というヒーローになりたければステロイドを用いるとよい。なぜ治るのか?の理由は解明されていないが、今までの症状が嘘のように本当に治る。こうしてステロイドを使用すると、医師の間では「ならず者」と烙印を押される(教授たちの論文で禁止されていることを行うため)が、民衆にとっては「自分の人生を救ってくれたヒーロー」となる。
この「町のヒーロー」になりたくて安易にステロイドを大量に使用する医師が開業医の中にいる。それは確かに患者の人生を助ける偉業であるが、彼らが副作用を勉強していないから困っている。大変困っている。ステロイドのことを必死に研究し勉強し、厳重に使用している医師までもが彼らと同類に見られてしまうからだ。
私はステロイドの安全性をどれほど厳重に管理しながら行っているか? どんなささいな副作用も見逃さず、副作用の芽は成長する前に必ず対策を打って摘んでいる。つまりステロイドを使うなら患者の全身管理を同時に行うという意味である。そういった全身管理ができない医師が、ヒーローになるためにステロイドを使用している現状をただただ嘆くしかない。ヒーロー的先生は、患者の痛みもわかり、親切で、とてもよいのだが、ならばもう少し勉強してほしい。「そんなことは言われなくても勉強している」というのなら次の質問に応えられるか?試してみてほしい。
患者の副作用を見破れるか?
- 「先生、胸のあたりがピリピリするんですけど」これは何?
- 「先生、最近足がむくみやすいんです」これは何?
- 「先生、最近性欲が出ないんです」これは何?
- 「先生、最近体重が少し増えました」これは何?
- 「先生、最近疲れやすいんです」これは何?
- 「先生、最近立ちくらみがするんです」これは何?
- 「先生、最近汗をかきやすいんです」これは何?
- 「先生、顔がほてってます」これは何?
- 「先生、注射したところの皮膚がおかしいんです」これは何?
- 「先生、先週はかぜをひいて来院出来ませんでした」これはなぜ?
これらは通常不定愁訴と呼ばれるもので、患者が訴えても、医師は聞き流すだけである。ましてやここが整形外科の診察室であったとしたら、「それは他のお医者さんで診てもらってください」と言って、軽くかわす内容の話である。しかし、これらは全てステロイドの副作用の可能性がある。医師はそこまで患者の話を聞いていないし、訊き出そうともしない。よって軽いうちに副作用の芽を摘むことができない。以下に答えを掲載する。
- ステロイドで免疫低下による帯状疱疹の前駆症状(疱疹はこの時点では出ない)
- ステロイドで静脈血栓ができやすくなり、血栓で足に浮腫ができる
- ステロイドの精神作用。うつ状態にさせる副作用があり意欲を低下させる。
- ステロイドは中心性肥満だけではなく体重増加もさせる(水分貯留)。
- 副腎不全による電解質異常の可能性あり。
- 消化管出血、不正生理出血などの副作用の存在を考える。
- 作用機序ははっきりしないが更年期症状が出る。
- 上に同じ。
- 毛細血管拡張作用があり不可逆のこともある。一般には知られていない。
- かぜは免疫低下と考え、ステロイドのせいだと察するべき。
私はこれをステロイド使用の患者にやっているのだ。そこまでやらなければステロイドの副作用が初期のうちに対処することができない。そして付け加えるならば、副作用は上に挙げた症状の何倍もの量が実際にはある。ステロイド使用患者の管理はこれほどまでに労力がかかり難しい。が、それができないのならそういう医師にはステロイドを使ってはいけないといいたい。ヒーロー気取りだけで副作用の強い治療をやるものではない。全身管理をできないつけは必ず医師に回ってくる。
ステロイドよりももっと怖い生物学的製剤
最近はステロイドよりもさらに強力な抗炎症・抗免疫の薬剤が開発された。レミケードなどの生物学的製剤がそうである。この製剤の副作用には「致死」という単語まで使用される。つまり副作用で死に至ることもあると言われる百害のある製剤である。もちろん、その効果はステロイド以上に強力である。よって自己免疫性疾患に苦しむ難治患者には一筋の光である。自己免疫性疾患にかかわらず、あらゆる炎症を鎮めてしまえるので、腱鞘炎、関節炎、神経炎も鎮め、あらゆる痛みを瞬時に取り除くことができるほどの効果がある。
現在は適応疾患がリウマチやクローン病、潰瘍性大腸炎などに限られているが、実際にレミケードは他の痛みを発症させる疾患にも驚くほどに効果がある。ステロイドの比じゃないとまでは言わないが、ステロイドをしのぐ効果であることは確かである。だが、キレのある薬は当然ながら副作用も尋常ではない。
しかしながら、現在、世界中でレミケードなどの生物学的製剤は使用規制があまりにも緩い。ステロイドを目の敵にして使用を禁止する教授陣は大勢存在するのに、レミケードの使用に警鐘を鳴らす教授はほとんど皆無なのだ。レミケードは免疫を抑制する作用が強力なので、癌の発生も問題視されている。にもかかわらず、今のところレミケードと癌は関連が明らかでないとうそぶく論文が目立ち、これを肯定的にとらえる論文が多い。
なぜそうなのか? 敢えて理由は言わないが、レミケードは1バイアルが11万円もする高価な薬剤である。この値段の高さと関連がないはずがない。ちなみにステロイドはただも同然の安い値段である。製薬会社と教授の蜜月は世界共通であろう。レミケードこそ、生半可な知識では使用を認めてはいけない百害のある薬なのだが、現在リウマチ医はこれをカジュアルにたやすく使用し始めている。とりかえしのつかないことが将来的に起こる予感がする。杞憂であればよいのだが…。
医師は患者の人生を評価できない
私はいつも権威ある医師たちの思慮の浅さに驚かされる。患者の人生をわが身のこととしてとらえることができていないからだ。前述したアメリカの学会での質疑応答のひどさである。「ステロイドの硬膜外注射は治療効果が劣る」と述べたRadcliffe博士はこう述べている。「(ステロイドの)注射後すぐの再診時には患者のアウトカム(症状)は改善しているかもしれないが、我々のデータは4年間追跡調査して硬膜外注射を受けない患者と比較した場合、改善はより小さいことを示している」と。こういった研究ははじめと終わりしか見ていない。ステロイド注射を受けた患者は受けない患者よりも痛み消失効果が優れ、運動量も仕事量も増やすことができる。その結果、4年後の現在、脊椎の変性や症状が進むという考え方があることを彼らは全く知らない。
ステロイドを受けない患者は強い痛みを訴えるがゆえに、行動が制限され、結果的に脊椎の老化(変性)を免れている。だから4年後の調査では状態が少し良い。それに比べステロイドを受けた患者は、活動性が上がり、趣味も旅行も仕事も恋愛もして人生を楽しみ、その結果脊椎の変性は若干進行する。もし、あなたが高齢者であったならどちらの人生を歩みたいか考えるべきである。
医学が、はじめと終わりの結果だけを見て、人生の質を考えないのであれば、それこそ終わっている。私の外来では「硬膜外にステロイドを注射してくれ」と名指しで指定してくる患者がいる。彼の言い分はこうだ。「ステロイド入りでは痛みが1週間なく仕事もできるが、ステロイドなしでは3日ももたないので仕事ができなくて困っている。私はもうすぐ退職だが、退職しても委託業務ができるように今のうちにバリバリ働いて会社に恩を売っておきたい。」という。彼は59歳。腰神経痛持ちの営業マン。営業成績はトップだそうだ。歩けなくては仕事にならない。だから10日から2週間毎に私のところにブロックを注射しに来院する。
私は彼に常にこう言っている。「注射をして痛みを取り除き、仕事量を増やすと、脊椎の老化スピードが速まりますよ。それを承知でブロックをするんですよ。それでもいいんですね。」と。彼はこういう
「息子と娘がまだ大学生で学費がかかるんです。今仕事をやめたら生活ができません。だからどうしても注射をお願いします。ステロイド入りで!」 私は常に患者の将来と、患者の幸福を考えて治療する。人間には寿命を縮めてもしなければならない業務がある。いくら寿命が延びても病人生活では生きている意味がない。よって患者の人生を診察しながら治療する。Radcliffe博士のようにはじめと終わりの両地点を見て、病気だけを評価するというような血の通わない冷血研究がどうしてもできない。「私が診ているのは病気ではなく人間だ。」私が学会の現場にいたらこのように反論していたに違いない。
おわりに
ステロイドは権威ある医師たちが考えている以上に効果がある。権威ある医師たちが外科医であった場合、その外科手術の件数(メンツ)を奪い去ることができるほどにその効果は強力である。よって外科医にとってステロイドは目の敵にされやすい。当然ながら副作用はクローズアップされてしまう。この諸刃の剣であるステロイドを医師が使用するに当たっては、患者との親密なコミュニケーションが必要であるが、その手間は想像以上に労力がかかる。問題は、強力な効果を得たいがために、手間を省いてカジュアルにステロイドを使用する医師の存在であり、そういう医師の軽はずみな行為がステロイドを怖いものとする概念を作ってしまったことにある。
結果的にステロイドは使うべきと私は結論付けるが、そのためにはステロイド使用医認定制度が必要かもしれない。あまりにも一般の医師たちにステロイドの知識が乏しすぎるからだ。しかし、この認定制度は現実離れしているがゆえに、「ステロイド使用にたいして警鐘を鳴らす」ということくらいしかできないのが現状である。私は今後、ステロイド使用のガイドラインを作成していこうと思う。今まで誰もやってこなかったことが不思議でならない。