骨形成とコレステロール・ステロイドの関連

コレステロールが下垂体機能低下を招く

私の研究では高コレステロール血症があると少量のステロイド投与でも下垂体のACTHが極端に低下したり、コルチゾルが著しく低下したりすることがしばしばあることが判明した(因果関係の解明にはまだ至っていないが)。 つまり高コレステロール血症は下垂体にネガティブフィードバックを生じさせやすいことを推測させるが、それと同時にコレステロールが骨芽細胞や造血幹細胞にも悪影響を及ぼすのではないかと思わせるトピックスがある。

ステロイドが骨細胞に及ぼす影響

例えば宇宙飛行士が無重力空間に長く滞在していると、骨密度が低下するだけでなく免疫力が低下することから、骨細胞が免疫力に強くかかわっていることが示されている。この事実はまた、骨細胞がステロイドとも関連があることを伺わせる。なぜならばステロイドは免疫力を低下させるからだ。 つまり骨細胞とステロイドは免疫を仲介して密接な関連性があるかもしれない。 また、ステロイドを大量に長期投与すると骨粗鬆症が起こることもステロイドと骨細胞が密接なつながりがあることを推測させる。 密接なつながりと言っても、どのようなつながりなのかは全く不明である。というのも、一般的にはステロイドはマクロファージの活動を抑制する。しかし、骨内マクロファージ=破骨細胞に対してはステロイドがどう影響するのか全くわかっていないからである。

ステロイドは破骨細胞・骨細胞の両者を抑制する説

ステロイドがマクロファージに働きかけるように、破骨細胞にも抑制的に働くのであれば、逆に骨密度が上昇してもよさそうなものである(破骨細胞は骨を壊していくマクロファージなので、これが抑制されると破壊されにくくなるため)。しかし実際はステロイドが骨密度を低下するのだからその仕組みが全く読めない。 するとステロイド破骨細胞に抑制的に働くが、骨芽細胞にもそれ以上に抑制的に働く可能性がある。

コレステロールは食事療法で下げるべし

さて、文頭で述べたように高コレステロール血症は体内ステロイド分泌(副腎皮質ホルモン分泌)の動態を狂わせると推測されるが、これが骨細胞・造血細胞などにも複雑に絡んで悪影響を起こす可能性が考えられる。  現在、高コレステロール血症は動脈硬化を生じさせるという認識は一般的に広まっているが、骨形成や免疫にまで悪影響を及ぼすという発想はない。それゆえ、高コレステロール血症を食事療法で正常化させる発想もない。  なぜ、経口薬を使用せず、食事療法で正常化させることを勧めるかというと、私の研究では経口薬を用いて血中コレステロールの値を低下させたとしても、ステロイドによるACTHやコルチゾルの分泌抑制を避けることができないという結果だったからである。  ただし、すべての経口薬で避けられないかどうかは今のところ不明である。腸管でのコレステロール吸収を阻害する薬剤エゼチミブ(ゼチーア)などでは避けられる可能性はある。また、追加報告であるが、ステロイドが極少量であるなら経口薬を服薬し、かつコレステロール値が正常であるならACTH低下しなかった。 多くの高コレステロール治療薬はLDLを低下させ、HDLを上昇させ血管内の悪玉コレステロールを血管外にしわよせるだけの作用しかなく、体内にある蓄積されたコレステロールを低下させることはない。よってコレステロールの摂食によりコレステロールが体内に蓄積しつづけ、これが下垂体機能や副腎皮質機能に悪影響を及ぼすと考えている。体内に過剰にあるコレステロールは、血中で正常値であってもホルモンバランスには悪影響をもたらすと考えるに至る。
 

骨細胞と免疫と脂肪

骨格に重力負荷がかからないようにしたマウスでは骨髄中のBリンパ球が減少すること(北海道大学 佐藤ら)、ジフテリアトキシンにより骨細胞を除去したマウスでは全身の脂肪が消失すること(2010年米国骨代謝学会)などの新事実が次々と発表されている。 また、骨細胞は抹消の脂肪を保持するために重要であり、肝臓の脂質代謝に関しては脳と強調して制御している(佐藤ら)とも考えられている。 私の高コレステロールと下垂体機能、副腎機能低下の関連づけた研究結果も上記と併せて考えると、骨細胞とステロイド、下垂体機能、副腎機能、肝臓での脂肪代謝などは全て密接な関連があるといえる。

ステロイドとコレステロールは兄弟

副腎皮質ホルモン(コルチゾル)やエストロゲン、プロゲステロン、アンドロジェン、テストステロンなどの性ホルモンもコレステロールから体内で生合成される。 ステロイドの投薬によりこれらのホルモンバランスが崩れ、女性であれば性ホルモンのバランスが崩れて生理不順をきたすことはよく知られている。 私の研究では高コレステロールで下垂体機能や副腎機能の抑制を来すことが判明しているが、これはつまり高コレステロール食がステロイドの構造式を持つホルモン全体に抑制をもたらすことが考えられる。 ステロイドは側鎖などによりコレスタン、コラン、プレグナン、アンドロスタン、エストランに分類されるが、コレステロールの過剰摂取はこうしたステロイド生合成の全てに悪影響をもたらす可能性が示唆される。

コレステロールの脅威

おそらくコレステロールは骨形成、脂質代謝、免疫、性機能の全てと密接な関係があり、その他にもまだまだ発見されていないさまざまな体内の機能とも密接なつながりがあると思われる。 コレステロールの過剰摂取は多くの生体機能に悪影響を及ぼす可能性があり、現在言われているような動脈硬化だけの問題にしていてはいけない。また再度言うが、私の研究では高コレステロール薬を服薬しても、下垂体機能。副腎皮質機能の低下は回避できない。よってコレステロールを過剰摂取しないことが健康維持に最重要と思われる。 しかしながら、世界中に流布されている「牛乳やヨーグルトにより骨粗鬆症を改善し、健康に生きる」というスローガンのせいで世界中の人々が乳製品から過剰なコレステロールを摂取する食生活習慣となっている。 乳製品によりカルシウムを多く摂取するメリットも、コレステロールを多く摂取してしまうデメリットと比較すると小さく、乳製品の日常摂取は害であると考えるに至る。

コレステロールを多く含む食品を知ろう

コレステロールは卵黄には多く含まれていることが知られているが、魚介類に多く含まれていることを知らない人が多く、また乳製品にも中等量含まれていることもあまり知られていない。よって低コレステロール食の一般教育は皆無に等しい。今後は高コレステロールは摂取制限により防止していく対策をとっていく必要があると強く感じるとともに、低コレステロール食の普及に尽力すべきだと考えるに至る。