はじめに
私は別に過去の権威者の作成した診断基準を否定して彼らの名誉を傷つけようなどとは思っていない。ただ、真実を知ることはこれから医学を学ぼうと思っている者たちにとって有意義であるから、敢えてここに真実を述べる。そういう意味で現在世界的に通用している股関節臼蓋形成不全の診断基準であるSharp角が実際は診断価値があまり高くないことをここに述べる。特に厳密に検証することは敢えて避ける。興味がある研究者は立位や臥位、腰仙部奇形の有無によってこれらの角度が容易に変化することを検証するとよい。ここでは簡単に概要を述べる。骨盤の前後傾斜によって容易に変わるSharp角
左の図は仰角0°(骨盤後傾15°)右は左から15°仰って(骨盤後傾15°)撮影したものである。ご覧のように涙切痕や閉鎖孔の見え方や位置が変わる。左は涙切痕が下方に映り、閉鎖孔は小さな楕円に見える。右は涙切痕がやや上方に映り、閉鎖孔は大きく丸く見える。そしてSharp角は約4°変化する。よってSharp角が40°~50°であった場合、臼蓋形成不全の診断には使えない。55°以上なら明らかに異常と言ってもよいが…。 クリックで拡大なぜ今までこんな単純な欠点が見えなかったか?
私は今回、この文章で仰角0°とさらっと述べたが、実は骨盤傾斜の正常値は世界に存在しない。骨盤の矢状面での傾斜(つまり前後傾斜)を測定することを世界の誰も試みていない。よって傾斜の違いによるSharp角の誤差に対して誰も気づかなかった。そして現在に至った。私は骨盤の傾斜を求める方法を独自に開発した「SIB line」参照。そしてその方法を元に立位での正常な骨盤傾斜を測定しているうちにSharp角のあいまいさに気づいた。そしてさらに骨盤傾斜は脊椎の前後の彎曲があるとたやすく変化し、また、腰仙部に破格があってもたやすく変化し、少し殿筋に力を入れても変化する。つまり骨盤傾斜は随意でも不随意でも変化しやすく、それに応じてSharp角もたやすく変化する。よって臼蓋形成不全の診断は、基本的にSharp角に頼るべきではない。