はじめに
コーダルブロック(仙骨部硬膜外ブロック)は比較的簡単であると認識しているドクターへの忠告である。「高齢者のコーダルブロックは恐ろしく難しい」ことを知っておいた方が無難である。「脊柱管狭窄は仙骨でも起こる」ことを常識としてほしい。仙骨での脊柱管狭窄はコーダルブロックを恐ろしく難しいものにする。通常、腰部MRIは仙骨部まで撮影しないので、このことを認識できる機会は少ない。よってここに掲載するので参考にしてほしい。症例 78歳男性
<現病歴> 腰痛、下肢痛なし、1年前から100m歩くとしゃがんで休憩をとりたくなるという間歇性跛行が出現。1か月前より両足底に「じゃりを踏んでいるような知覚異常」が出現したため当院を受診。MRIでL4前方すべり、腰部脊柱管狭窄症と診断される。MRI
右は26歳女性のMRI。左が本症例。これを見れば本症例のMRIではS2以下の脊柱管前後径が極端に狭いことがわかる。私はこのことに気付いたのが今から5年前のことである。「高齢になれば仙骨も変形する!」今まで誰かこのことを知っていた者はいただろうか?数字は横縦比(横径÷縦径)を計算したもの。左図はこの症例。右図は26歳正常腰椎。高齢者では仙骨が横に広がり縦に短くなる。よって横縦比が上昇する。そしてそのおかげで、後方にある脊柱管のスペースが極端に狭くなる。この図を見れば、高齢者のコーダルブロックがいかに難しいかがわかるだろう。針の穴ほどの隙間しかない! 少しでも角度が違えばコーダルブロックは成功しない。これはコーダルが簡便だと思っているドクターへの忠告である。仙骨部の狭さには個人差も多いが、このように特に狭い人もいることを念頭に入れておく!
本症例のように仙骨部脊柱管狭窄があると、針を奥まで入れようとすると、入射角が5度異なるだけで針は骨にぶつかってしまって入らない。また、骨盤の前後傾に個人差がある。この個人差により、仰臥位で寝ていても刺入角に個人差があり、一様に約20度などというアンチョコな知識で刺入すれば、全く入らないなんてこともある。
さらに二分脊椎などがあると、仙骨角がS2からS4のどこにあるのか不明瞭となる。これらのことを踏まえると、高齢者のコーダルブロックはかなり難しい症例があるということがわかる。入りにくい人は、誰が何度やっても入りにくい。入りにくいのは技術のせいではなく、高齢者の特質である。
まとめ:高齢者では脊柱管狭窄が仙骨にも及ぶことを知識として頭に入れておく。仙骨の脊柱管狭窄があると針の侵入可能角度範囲が極めて小さくなり、刺入困難となる。刺入点が悪いと、誰が何度刺入しようとしても成功しないことがあることを知ろう。時に高齢者のコーダルブロックはブロックの達人が行っても入らないことがあるほどに難しいことがある。
患者の立場でコメントをいたします。
たまたまこのサイトにたどり着きました。
2ヶ月前より間歇性跛行を発症しています。数軒の整形外科、ペインクリニックを訪問しましたが効果なし。先々週やっと神経根ステロイド注射を打ってくれる整形外科へたどり着きました。1度目の注射を打つ前はMRI上、腰部脊柱管狭窄症の兆候なし。脊柱管は十分広い。5番目の椎間板がちょっと飛び出ているのでそこへ注射を打ったが効果なし。翌週(同じ病院)の異なる医師に診察してもらったが、場所的には(1度目と同じ)場所しか考えられないということで同じ場所に注射を打ったが効果なし。
このブログを書かれた先生に診ていただきたく思いますが可能でしょうか。
ブロック治療が効果がない場合、次のようなことを考えます。動脈硬化による間欠性跛行、MRIでは判別しにくい箇所での狭窄、脊髄内の動脈の微小血栓、神経根ではなく脳・脊髄レベルでの運動ニューロンの障害など・・・。椎間孔での物理的な狭窄があると、ブロックでは何度行っても「絶対に治らない」ケースがあります。ブロックは物理的な狭窄を広げることが不可能だからです。その場合はあきらめて手術的に治す方法しか残されていません。そうでなければ、神経根ブロックを根気よく繰り返すという方法もないわけではありませんが、労力をかけてもすべてを治しきることは難しいかもしれません。まことに遺憾ですが注射で治せるものには限界があります。そうした限界を理解した上で、私を「保存療法の最後の砦」として試しに治療を受けてみるとお考えになられるのでしたら、東京までご足労ください。メール差し上げます。