重力と気圧を治療概念に導入する

重力と気圧を治療概念に導入する

日常生活を送る上で空気の必要性を感じることはほとんどありません。同様に地上に住んでいる私たちは重力が体に及ぼす影響を感じることはありません。しかしながら私たちの肉体は細胞の一つ一つに至るまで、重力と気圧という物理的なストレスに耐えうる構造をしていなければなりません。逆に言うとこの世に生まれた地上の生物は重力と気圧により物理的に破壊されていきます。長く生きるほど、重力と気圧からの破壊力を多く受けることになります。 これは生物に限ったことではなく、建築物、機械、自動車、パソコンでも同様のことが言えます。自動車を1年間、一度もエンジンをかけずに放置しておくとそれだけで故障します。パソコンもそうです。
この最大理由は重力です。重力が一か所に長時間かかると、その部分は金属であろうとプラスチックであろうと、変形を起こし歪みや亀裂を生じます。どんなに頑強な金属でも長期間、一か所に強い重力がかかり続けると物理構造が壊れます。よってどんな機械も長期間動かさずに放置しておくとそれだけで故障します。 長期間、同じベクトルに圧力がかかるとどんな物質でも変形します。つまり地上にある物質は地上に重力がある限り変形を免れません。 さて、人間の肉体においてこのことを認識しながら生きている人は医者や学者も含めてほぼゼロでしょう。
私は患者に「日常生活を変えていかないと、この腰痛はなかなか治りませんよ」とムンテラすると、ほとんどの患者は「私は(腰に負担をかけるようなことは)普段何にもしていません」と反論されます。100人にムンテラして100人から反論されますので、ほぼ100%の確率で地球の重力を認識している人はいないことが判明します。 何もしないでいることが重力を同じ個所にかけることになり、重力が長時間かかっている箇所がどんどん変形を起こすという概念が皆無なのです。 同じ姿勢で30分椅子に腰かけていることが重力を長時間同じ個所にかけることになり、脊椎の構造を破壊していくという概念がないのです。姿勢がよくても静止していると組織は重力で破損するという概念を広めなければなりません。
私はこうした概念を患者に指導していますが、なにせ私は教授などという権威を持たない医師のため、患者がなかなか私の指導に従いません。「何もしていないことが腰椎を壊す」と説明すると、「この医者は何もわかっていないバカ」だという顔で患者は私を見ます。それどころか、いきなり立腹し、まるで自分のプライドを傷つけられたかのように反論する患者もいます。外見と肩書でしか患者は私を判断しませんので苦労しています。
さて、重力の概念を理解していないのは、悲しいことに整形外科医であると感じます。彼らはウィリアム体操をはじめ、膝痛、肩こり体操などを開発していますが、そもそも「筋肉を鍛えれば痛みが起こらない」とする考え方には論拠がありません。
私は筋の運動が筋ポンプ作用で血流量を増加させることと、重力の分散に寄与するからこそ痛みが改善するという見解です。筋肉を鍛えることが治療になっているとは思えません。 私はいつも患者に説明しているのですが、常に腹筋や背筋を鍛えているのと同等の運動を行っている肉体労働系で働く人たちは、腰痛が起こらないかといえばそんなことはなく、かえって腰を傷めていることを主張してきました。筋肉を鍛えれば腰痛は起こらないというのは単純すぎる考察であることを述べてきました。
さらに、スポーツトレーナーの指導の下に運動をして逆に腰痛が激しくなった人たちを多数診察し、治療していてわかることは、単純なガイドラインにそったトレーニングは、個々の症状に適応していないことが多いということです。 本質は筋肉にあらず、重力と血流にあり。ならば現在ある各種○○痛体操は、改善の余地だらけでしょう。 人間に運動が必要な理由は筋肉ではなく、重力をいろんなベクトルに分散させ、1か所に長時間の重力がかからない状態にするためであるという概念が必要です。
どのようにして重力を分散させるか?が骨格を維持する上で最重要項目であり、筋肉を鍛えることは重力の分散に直結しません。むしろ運動バランスや姿勢のほうが重要です。 適度な運動を適宜行っている人は、重力が常に分散しており血行不良が局所に生じにくいのです。そのため故障しにくいのであって、私たちは重力をどう分散させるかにもっと頭を使うべきであると考えるに至ります。
重力の分散が特に必要なのは、入院してベッド上に臥床となっている患者であり、臥床している患者のケアを行わない限り、内科病棟では寝たきり患者をどんどん作っていってしまいます。 車いすに座っている患者の場合も、重力の分散が重要ですし、自力で寝返りが打てない状況の患者の寝具の整備は、命にかかわる重要事項です。 そうした重力の概念がないため、生活指導は迷走し、寝具、椅子、枕などの開発も進まないのです。日常損傷病学では重力をどう分散させるかを研究することを今後の課題とします。膝痛・腰痛・肩こり体操、リハビリテーションの考え方なども根本的な見直しをすべきでしょう。

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