ビスフォスフォネート製剤と顎骨壊死
ビスフォスフォネート製剤(以下BP)は破骨細胞(一種のマクロファージ)を抑制することで骨細胞のターンオーバーを遅らせる薬で、骨粗鬆症治療に多大な貢献をしている薬です。破骨細胞(マクロファージ)の活動を抑制するということはBPも広義には一種の免疫抑制剤ということができます。 しかしながらBP製剤により歯科治療の後に顎骨が壊死を起こしやすいという報告があります(1000例・年で0.1~0.2、Yoneda et.2010)。このような報告の信ぴょう性については慎重に検討しなければなりませんが、やはり何度も言うように、免疫抑制剤は適時、適所、適量が非常に難しく個人差も激しいため、中には通常量のBP製剤が患者個人に対しては過剰量である場合があります。その場合BP製剤が骨細胞のターンオーバーを遅くさせすぎることにより骨細胞の平均余命を過度に上げ過ぎてしまい、骨の強度を逆に低くさせたり、骨内の循環不全を生じさせたりする危険性を考慮しなければなりません。BPはターンオーバーを遅らせるという意味でステロイドと同じような作用があります。よってBPも適時、適所、適量が重要だという結論に達します。現在のように、個人差を考えず、一律同量のBPを処方する状態では、被害者が出現します。現整形外科学では単に「骨密度を上げれば骨折を防げる」と安易な考え方をしています。しかしながら密度=強度に直結しないことを考えなければなりません。それは骨細胞の高齢化です。BP製剤は骨細胞の寿命を延ばすため骨細胞全体が高年齢化します。高年齢化の度が過ぎると、骨密度がいかに高くとも正常な骨髄にはならず、非定型大腿骨骨折や顎骨壊死などの障害が起こる可能性があるということを考えなければなりません。BP製剤使用で1000例・年あたりの非定型大腿骨骨折の発生率は最大で0.23(Black DM et.)とわずかですが、わずかだから無視するのではなく、骨折が起こる症例の共通点を探り出し、適時、適所、適量を考え、未然に防ぐことを考え出すことが重要です。