炎症抑制物質の停滞

4、炎症抑制物質(副腎皮質ホルモン)の停滞

炎症の増大に関与する体内の仕組みについて述べてきましたが、当然ながら人体にはその炎症反応を抑制するシステムを持ちます。この炎症(免疫)抑制システムがうまく作動しないと症状(熱・浮腫・痛みなど)は激化します。人に起こっている症状を理解するためには、原因だけを考えるのではなく、症状を抑制するシステム自体の停滞のことを考察しなければなりません。
癌細胞は免疫を騙す仕組みを持ち、抗体や補体に攻撃されません。だから増殖し続けることができるのです。または増殖スピードがマクロファージの処理スピードよりもはるかに速いことで、食されたとしても増殖し続けることができます。通常の体細胞は新旧が入れ代わります(古い細胞は攻撃されます)。しかし、癌細胞は古くなっても攻撃されることがないので入れ替わらないまま増え続けます。癌細胞の平均寿命は他の正常な細胞よりもはるかに長いと思われ、推定50万年?とか(仮説)。
つまり人の免疫システムを完璧に抑制・制御することが、癌細胞にはできるわけです。癌細胞がどうやって免疫の制御をしているのかの全貌が判明するのにはいったい何百年かかることでしょう。何百年かかったとしてもこれを解明しなければ癌は制圧できません。そしてこれが解明できれば体内で起こっている炎症反応を完全に抑える薬も開発されることになるでしょう。逆に言うと癌細胞のシステムを解明できない限り免疫システムもまた解明されることはないということです。
さて、体内で炎症(免疫)抑制を行う唯一判明している物質が副腎皮質ホルモンです。前述しましたが、免疫の抑制がうまく作動しなければ、抗体や補体は自分の体細胞を手あたり次第に攻撃していきます。だから免疫システムは体にとっては危険な存在なのです。危険だからこそ、免疫抑制システムも強力に働いているはずです。 しかしながら現医学はまだまだ遅れていて、免疫を抑制するシステムは副腎皮質ホルモンくらいしか今のところ判明していません。 しかも副腎皮質ホルモンは発見されてからまだ80余年しか経っておらず、いまだにその正体の全貌が明かされてないません。よって、これを適切に治療薬として使える医師がなかなかいません。もちろん一定のガイドラインはありますが、それが安全である保障がありません。というのも私の研究では副作用が出ないと思われる極少量のステロイド使用でも、過敏に反応してACTHやコルチゾールが低値となり、下垂体機能や副腎機能に支障をきたす例を散見しているからです(「ケナコルトの安全性と副作用に関する調査」を参照ください)。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)は一時、爆発的に世界で使用されました。しかしながらステロイドの使用量や使用期間も十分に研究されないまま使用されたため、トラブルが相次ぎ、現在では医師たちにステロイド使用が忌み嫌われるまでになりました。そして安易にステロイドを使用する医師は学会から破門されるに至っています。
それは愚かなことです。なぜならばステロイドは炎症抑制システムの要であり、私たちの体内の副腎皮質から分泌されている生理的な物質だからです。使い方が不適切なためにトラブルを引き起こすのであり、医師も患者もステロイド投与をいたずらに避けるべきものではありません。 ステロイドを投薬しなくとも、ステロイドを避けても、私たちの体内に炎症が起こるとそれを抑制する目的で副腎からステロイドが分泌されます。炎症が強い場合は大量に分泌されます。必要であるから分泌されます。しかし、必要な時に必要量が分泌されていなかった場合、適量を外部から投薬するべきでしょう。再度そういう観点に立ちステロイドについて研究を進めなければなりません。
ここで最初に重大なことを述べておきます。 「症状は、はっきりした原因がなくとも、炎症を抑制するシステムが低下しただけでも出現する」ということです。そこに器質的な異常のあるなしは関与しません。 なぜならば私たちは生きているだけで、酸素を消費し、熱を作り出し、体を動かし、細胞が絶えず損傷し、死に、取り壊されて、常に新しい細胞に置き換えられているからです。 生きることは炎症を作り出すことです。よって炎症を抑制するシステムの低下は必要以上の炎症を招き、必要以上に炎症を起こした部分に症状が出現します。まさにこれが日常損傷病学の基本です。
私は炎症が起こるシステムの3項目を前述しました。1、生体脆弱性、2、損傷細胞処理の鋭敏さ、3、炎症反応の鋭敏さ、です。1は生まれ持った体の構造上の弱さのため弱いストレスで炎症が生じるというもの。2は抗体が傷ついた(老化した)細胞を処理する際の鋭敏さが強いと、些細な損傷でも炎症が起こるというもの。3、は炎症反応そのものの過敏性により強い症状が出てしまうもの(神経系の異常を含む)です。そして最後に2や3を抑制するシステムが低下した場合に強い炎症症状が出るというものです。 これらの3項目はこれまでの医学のどんな診断・診察でも見つけ出すことは不可能であり、症状が出ていても「器質的な証拠がないので心因性である」とされて精神病者扱いし、放置してきた分野のものです。疾患としては成立しないものです。 その疾患として成立しないものを疾患として考えるためのガイドラインの3本柱が上記のものです。
さて、実際に体内で炎症を抑え症状が自然消退するのは副腎皮質からコルチゾールと呼ばれるステロイドが分泌されているからです。外部から投薬をしなくても体内のコルチゾールで副作用が出現します。例えば糖尿病治療中の患者が骨折をした時は、体内のコルチゾールが分泌され、通常は空腹時血糖値が120mgだったものが、300mg程度に跳ね上がることがしばしば観察されます。また広範囲の熱傷の患者などでは大量のコルチゾールが分泌されます。 ステロイドを治療に用いることに抵抗のある医師・患者が多いと思われますが、抵抗があるなしにかかわらず、ステロイドは患者の体内から分泌されているという意識を改めて持つべきでしょう。適量をわきまえずに使用することが問題なのであって本来は炎症を抑える際に適宜用いるべき必要な薬剤です。

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