リウマチ因子は悪者ではない
自己抗体は体細胞の種類によって親和性が異なり、例えばリウマチ因子では関節軟骨や滑膜と親和性が高いでしょう。よってリウマチ因子が多ければわずかに損傷した滑膜細胞を抗原とみなし補体活性を経由して様々な関節炎や滑膜炎を起こしやすいと思われます。 ですがこれまでの医学のような考え方でリウマチを語ってはいけません。リウマチ因子は誰にでもあり、健常者にもあります。つまりリウマチ因子は決して悪者ではありません。リウマチ患者と健常者で異なるのはそのリウマチ因子の数やリウマチ因子のほぼ正常な細胞まで食してしまうという損傷細胞処理の鋭敏さです。リウマチ患者では損傷した滑膜(軟骨)細胞への処理の閾値が低くなっていると考えます。つまり両者に明瞭な境界はありません。 よってリウマチ因子も人間の自己抗体の進化学的な適応の一つと考えます。リウマチ因子は関節周辺の細胞に親和性のある自己抗体(損傷細胞処理係)ですが、重労働をしない環境では有利に働くという意味です。なぜならばわずかに損傷した細胞にもリウマチ因子は処理に取り掛かり、関節内を新しい細胞で満たしてあげることに貢献しているからです。 重労働をしない環境では関節内の細胞のターンオーバーが停滞します。リウマチ因子はその停滞を改善し、新しい細胞に入れ替えるのに非常に役立ちます。
しかし、重労働をする環境ではリウマチ因子は極めて不利でしょう。日常的に関節内の細胞が損傷を起こすわけで、これに対しいちいち自己抗体が鋭敏に反応していては、関節内にサイトカインなどが蓄積され、破骨細胞が活発化し、関節は破壊されていくからです。
このように生活環境によりリウマチ因子それほど不利にならない場合があります。よって人が住んでいる環境をも考慮して初めて病気が成立するという新たな考え方を導入しなければなりません。抗体価を中心に診断するのではなく、症状を中心に治療を考えなければなりません。 ここで再度言いますが、自己抗体は悪者ではなく、損傷した体細胞を処理するために健常者にとって必要不可欠な存在です。自己免疫が悪者になるのは体細胞を処理するかしないかの閾値が低下する場合であるとの見解を持つべきです。
逆に言うと関節軟骨や滑膜を損傷閾値よりも高い状態に保つ生活環境を作ることができれば自己抗体が多くても症状は出ません。損傷閾値以上を保持するには生活指導でどうにかできるものであり、だからこそ自己免疫の数値だけで診療すべきではないのです。